
- なんぞ
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去年までは、演劇の仕事で年間半年くらいは東京にいることが当たり前だった。沖縄、名古屋、札幌などにもよく出掛けていたし、大阪人というものの、どこか旅行者のような生活だったのかもしれない。
それがべったり一年、大阪に居たわけである。10年ぶりくらいだろうか。そうなって何が起きたかと言うと、まず友達が増えた。増えたというより、前からちょっと知ってただけの人と普通に飲みに行ったり、自粛になってからはライン電話などで喋るようになった。大阪に居る時間が長くなったので、会えるようになったわけだ。
そうすると、俄然もらい物が増えた。毎月のように友達から色んなものが送られてくる。「久しぶりに長い事大阪に居るねんやったら食べて~」という感じで、次々に届く。野菜、梅干し、胡麻、味噌を作るキット、ラーメン、お菓子、果物、お酒…わらしべ長者か私は? と言いたくなるほどの量だ。
先日も大量の海苔を貰った。「もみ海苔やから気にせんと食べて~」とのことだった。海苔を商品にする時に切れ端をカットした業者用のもみ海苔らしい。
気にせんと…というが、量が半端ではない。一袋がスーパーの大きい袋くらいある。それが3つ送られてきた。うちは2人家族だ。毎日毎日もみ海苔を必死で食べたとしても3年分くらいある。
湿気て食べられなくなるもの嫌なので、ジップロックの袋と乾燥剤を買ってきて小分けにし、劇団員や、後輩に送ることにした。すると、またそのお礼にと何か送って来る人が居る。貰い物→小分けでお裾分け→貰い物のルーティーンが永遠に続いている状況である。
ちなみに女友達と会うと、最近流行ってる「美味しい食パン」というものを貰う率がグンと上がった。二斤くらいあるので、食べるのに本当に苦労するのだが、食べきる前に他から貰うので、冷蔵庫にいつもパンがあるようになってしまった。
大阪弁でおやつのことを、昔は「なんぞ」と言ったらしい。要するに特別なお菓子などではなく「なんぞ(何か)」ちょっと摘まむものをお茶を飲む時に食べるという意味から来たそうだ。
この「なんぞ」精神が発達して、大阪人は家に招いたお客さん、久し振りに会う友達、飲み会などに必ずと言っていいほど小さいお土産を渡す習慣がある。女性は特にそうだ。「せっかく会うてんから、なんぞ持って帰って」と、色々なものを送り合うのである。
地元の飲み屋や、料理屋さんにもよく行くようになった。前から行ってはいたが、回数が増えたわけだ。すると店の店主から「これ、田舎から送って来たから持って帰って」と山菜を貰ったり、「昨日マスターが釣って来てん」と刺身を出されたりするようになった。
大阪ってほんまに日本一大きい田舎やなぁ。べったり居たら食うに困らんやん…とつくづく思った一年である。そしてまだまだ続きそうだ。