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大阪ん♪ラプソディー

言葉のマジック
先日、うちの夫が嬉しそうな顔で「上司をやる気にさせる部下の一言って、何やと思う?」と聞いてきた。ネットニュースか何か読んだらしい。「流石っすねぇとか褒める部下?」と、適当に答えたが、そんな直接的な言葉ではなかった。
 「試してみませんか?」と聞く部下は、上司を動かすらしい。自分の言いたいことをストレートに言うのではなく、伺う姿勢が気に入られ、しかも実現に漕ぎつけるという。
 つまり「社長、これからは●●ですよ」と言うと「なんだ、こいつ生意気な」と思われ嫌われて、話も通らない。しかし「社長、●●試してみる価値がありますよ」と下から出ると、「そうだな… やってみてもいいか」と採択されるという。
 確かに上下関係が残っているような社会では、若者のものの言い方ひとつでずいぶん違いがあるのだろう。私だって、芝居の演出をしていて俳優に「このやり方でやりたい」と自分の主張を先にされたらムッとするが、「試してみていいですか?」と聞かれたら「やってみて」と答えるに違いない。
これは逆に上司が部下に命令するときも同じだ。「これをやれ」と言われるより「これを試してみろ」と言われた方が素直に従いやすいものである。
 昔から「甘え上手」と言う言葉があるが、目上の人に甘えるのが上手い人は、恋愛相手にも、友達にも上手いのだろう。別名「人たらし」というやつだ。  知り合いに会ったとたんに「わぁ、会いたかったぁ」と言う人がいる。そう言われて「嘘つけ、そんなわけないだろう」なんて思う人はいない。いたとしたらよっぽど関係がこじれている場合だろう。
 彼の口癖なんだろうか、いつ会ってもそう言われる。そしてその度に「またまた~」と答えながら、悪い気がしない自分がいることは確かだ。それが「あ、お久しぶりです」とか「どうも、お元気でしたか」と笑顔で言われても、いきなりの「会いたかった」に叶うことはない。憎い一言だ。
 東日本大震災の時に取材で合い、その後ずっと友達として行き来している大槌町のオジさんは大阪人が別れ際に「ほなまた」と言うのが大好きらしい。理由を聞くと、音の響きも可愛いし、別れが重くならない感じがするという。
 なるほど「さようなら」と言うと少し寂しいが「ほなまた~」には愛嬌があるのだろう。別れ際の言葉は難しい、私は中国語の「再見」という言葉が大好きだ。再び見るという表現の中に詰まった優しさや、期待、別れを哀しいものにさせない人間の知恵が感じられる。漢字の意味が分かる国の人間で良かったと心から思う。
 世の中はなんでも言い方ひとつ、考え方ひとつと昔から言うが、それは間違いない。私も明日から「試してみよう!」と言える大人でありたいと思う。