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大阪ん♪ラプソディー

無遅刻の極意
先日、平均年齢25歳という若い子達が中心になって作っている劇団に一日講師として招かれた。よく「劇団って何を教えるんですか?発声とか?ダンスですか?」と聞かれるが、そんなことは個人の才能に関わってくるので、一日では教えられない。
 私が行って短時間で教えられるのは演劇人の礼儀作法だけである。というのも自分が若い頃に周囲の人に言われたことが未だに小さな棘のように刺さっているからだ。
 バイトに行けば「え?芝居やってるの。ほんならよう休むんやろ?遅刻せんといてな」と言われたものだ。
 これは大変な不名誉であり、当事者としては面白くない偏見だ。実際は稽古に遅刻する人など皆無で、本番に穴をあけたら一生干される世界だ。
 世間の人に「演劇やってる人って礼儀正しいし、会話も面白い、本当に賢い子が多いね」と感心されるようにならないと!と誓った19歳の春だった。(夏か、秋か、冬だったかもしれませんが・・・)
 ということで、若い演劇人には遅刻しない方法。どうやって人と会話を広げるかなど、普通の営業マンにだって通じる処世術をまず身につけさせるように心がけている。
 でなければ誰が芝居に興味を持ってチケットを買ってくれるというのだ?テレビや雑誌の影響で若くて綺麗なタレントさんが持てはやされるのは仕方ないとしても、こっちは生きた人間の世界を描いて文化を担ってるんだという自負もある。まずは人間として信用されなくてはならない。
 ちなみに遅刻しない方法は、死んだ父から伝授されたものだが、家中の時計をバラバラに進めておくことだ。父は客船の船乗りだったので、遅刻にはうるさかった。「時計を全部進めておいたら、どれがあってるか分からないから、結局早く出ることになる」という持論を聞かされて育った。
 今でも我が家の時計は全部進んでいるが、どれが何分進んでいるかは分からない。いちいち覚えていられないからだ。原始的な方法だが、ほんの数分で信用を得るのなら有効な手段だ。
 え?携帯の時計ですか?そうなんですよ。あれは正確なんでねぇ。私はもっともシンプルなやり方で、見ないようにしています。