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大阪ん♪ラプソディー

 先日、仙台に行った。…寒かった。というのは当たり前の事なのでいいとして、行った目的は東北の若い劇作家たちが書いた短編をリーディング公演で読むためである。私は人生で初めて2日で6本もの新作に役者として出演した。
 なんでそんなことになったかという事と、コロナが原因だ。演劇人というのは元来、肉体労働者なので、実に器械に弱い。「台本をパソコンに送るから、アドレス教えて」なんて言っても、パソコンなんか持ってないという役者が大半だ。じゃ携帯に送るから自分で印刷しておいてくれと言っても、その方法が分からない。「コンビニに行ってコピーするためには…」と説明を送らねばならず、それも理解してもらえないので「もういい! 打ち出した台本送るから住所教えろ」という事に落ち着くわけである。
 2020年、そんなアナログな演劇界に激震が走った。緊急事態宣言が出て現場に行けないので、オンラインで会議をすることになった。打合せや、読み合わせもパソコンやタブレット、携帯でやってくれという。「ZOOMってなんや?」から始まり、パソコンのどこにマイクが付いているのか、カメラがあるのか? とみんな大騒ぎだった。
 私が所属している日本演出者協会という演出家の集まりでも同じように混乱が起きた。一般の人を対象にした3日ほどのワークショップを開催する予定だったのが出来そうもない「わかぎさん、オンラインで芝居教えられますか?」という連絡が来たわけである。「分からんけど、やってみるしかないやん」と引き受けたのだが、どうやらそれが協会初のオンライン講座だったようだ。
 さて開催するのは何とか出来ることになったが、今度は一般の受講生にも同じ現象が起きた「やりたいのですが、ZOOMの入り方が分からない」という事である。そこで登場したのが演劇界には数少ないパソコンに強い演劇人である。と言っても何百人も居る協会に2人だけなのだが…
 ともかく、その一人が仙台に住んでいるO君という41歳の演出家だった。彼は仕事がパソコンの関係だったらしく、協会のオンライン講座を次々とサポートしてくれた。「こんな演出家居るんや」と感心したものである。
 そんなO君から連絡が来て「わかぎさん、今度東北の若手劇作家6人に新作書いてもらって読むんですけど、ゲスト出来ませんか?」と呼び出されたわけである。オンラインではすっかりお世話になっているので、私は「いいよ」と二つ返事したのだが、パソコンで気軽に会っているのでつい近しい気になっていたが、奴は仙台に住んでいたのだ。行くことになって改めて距離を感じた。
 しかも12月の仙台は遠くて寒かった。それでも平面しか知らなかったO君が目の前に立ち「よく来てくれました!」と笑った顔を見たら、行って良かったと心から思った。どんどん進化して、便利な世の中になればいいと思うが、人間とビールはやっぱり「生」に限る!