
- あんばい
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演劇の稽古場には「休憩時間」というものが無い。いや全く無いというわけではないが、だいたいが演出家によって「はい、じゃ休憩しましょうか」という一言で決まる。
その場合スタッフから「何分しますか?」と聞かれる、だいたい10分くらいの小休止ということになるのだが、出演者が多いとトイレにも行けない場合もある。
日本では12時から13時までは昼の休憩時間と決まっているところが多い。聞いた話によるとお昼の休憩が2時間の国もあるらしい。ゆっくり自分の用事を済ませて、また働くというスタイルもあるそうだ。どちらがいいかは別として、1時間になったのはいつの頃から、誰が決めたのかも気になるところだ。まぁ江戸時代には無かっただろうと想像できるので、明治になり学校が義務教育になった頃にヨーロッパのどこかの国をモデルにしたのだろう。
話が逸れた。そう! 芝居の稽古場で休憩するのは演出家にかかっている。演出家、つまり私の事である。うちの劇団では昔から小休止のことを「タバ休」と呼んでいる。「タバコ休憩」の略である。10分とかきっちり決めずに、なんとなくタバコを吸うメンバーが一服するくらいの時間という意味合いで始まった。
ところが時代とともにタバコを吸う人が激減し、いまでは誰も吸わない時もあるし、若い子たちに「タバ休って演劇用語ですか?」と聞かれる始末だ。そろそろ新しい休憩の呼び方を考えねばならない。
演出をやっていると、稽古中は役者が演じているのを見ているわけだが、休憩になるとスタッフが「ちょっと確認いいですか?」と寄って来たりして、休憩を決める立場なのに自分は休憩出来ないことも多い。それを嫌って稽古中に一切休憩時間を設けない人もいるようだ。体力のある演出家がそれをやると8時間休憩無し! みたいな現場もある。恐ろしく忍耐強いスタッフや俳優でないと途中でくたびれてしまうことだろう。
なんでこんなことを書いているかというと、昨今のハラスメント問題などで出演依頼をすると俳優の事務所から「休憩は1日何回で、都合何分ありますか?」と聞かれる事が多くなってきたからだ。
「えー? そんな事聞かれても、稽古のノリが良かったら続けてしまうやん」と思うが、「そうでしょうけど、目安として教えてください」と言われる。
うーん、舞台は生ものなので現場の雰囲気で創れるものが変わるから、休憩を何分するかなんて答えられない。ではもう済まない時代なのである。
しょうがないから「休憩は複数回、1時間以内くらい」とアバウトな回答をして逃げてはいるが、そのうち契約書に書けという人も現れるだろう。クラッシック音楽の世界ではすでに50分やったら10分休憩というルールもあるらしい。
休憩しない演出家が居ることも事実なので、こんな事態になって来たのだろう。なんでも「塩梅(あんばい)」というのがあると思うが、難しいものだ。あなたの仕事場は1日どれくらい休憩しますか? と聞いて歩きたい気分だが、現実逃避で「塩梅」ってなんで塩に梅って書くのだろう? と調べている最中だ。