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大阪ん♪ラプソディー

天国
 去年、日韓演劇交流会2024と銘打たれた演劇祭に参加した。日本の小劇場の劇団3つと、韓国の小劇場の劇団4つの合計7劇団が大坂に集結して、40分ほどの芝居を次々と上演した。とても画期的な試みで、毎年やるというので、今後も協力しようと思っている。
 その前に、韓国側のプロデューサーからも日本の劇団を招待したいという話が持ち上がり、うちの劇団も行くことになった。以前も沖縄の国際演劇フェスに行ったことがあるので、経験としてはなるべく身軽な芝居を創って持って行くことに徹して行った。要するに衣裳は自前の服でも出来るようにすること、小道具や特別な音楽がなくてもいいように会話や仕草だけで成立するような作品を作るのだ。簡単に書いてるが演者次第なので、上手い役者でないと成立はしない。
 韓国はいま小劇場の演劇がめちゃくちゃ熱い。テハンノという町には150以上の劇場が立ち並び、日本人の俳優も修行にどんどん行っているような状況だ。
言葉なんか分からなくても熱気で伝わると言わんばかりで、90年代の日本の演劇シーンを思い出して懐かしくなる。
 さて、そんな韓国に行ったわけだが、連れて行った劇団員たちの井の中の蛙ぶりが凄かった。私はソウルにもよく行くし、外国に行くのは慣れっこなので考えたこともなかったが「もし迷子になったらどうする?」とか、「絶対に鞄を切られて持って行かれないようにしないと」と稽古場で大の大人が話し合ってるのを聞いて、爆笑してしまった。
「普通の大人が歩いてるだけで、そんなことないよ」と何度言っても聞かない。だいたいが私以外のメンバーはパスポートを取りに行き直すところから始まった。Hという劇団員は「僕がNYに行った時は…」なんて日ごろ話してるので、てっきり旅行好きなのかと思っていたら、なんとNYに行ったのは20年前で、しかも彼女がダンス留学していたので、そのお母さんが訪米に行く時に連れて行ってもらっただけだと判明した。「ヘタレばっかりや…」と心の中でがっかりしたものだ。本人は「芝居してたら外国なんて行けませんよ。金かかるし」と言い訳したが、行きたかったら金がなくても行くもんやと言いたかった。
 そんなポンコツ集団と行ったわけだが、行先はソウルである。日本と何も変わらない、大阪のコリアンタウンと同じようなものだ。ダイソーはあるし、スタバはあるし、マクドだってある。みんな行ってやっと安心したようだった。  ただし、ひとつだけ彼らが閉口したのがトイレ事情だ。外国に行き慣れていたら分かるが日本のトイレはお世辞抜きに世界一綺麗で清潔だ。ソウルも大都市ではあるが、水事情が良くないようで、便器に紙を入れて流さないのが基本だった。さすがにホテルはそうでもなかったが、大手のスタバやマクドのトイレも例外ではない。おまけに紙などほとんどないのが当たり前だ。
 男はまだいいが、女子トイレのゴミ箱は紙くずでパンパンという状態をよく目にした。もちろんそれなりに匂いもする。とは言え、アジアに行き慣れてる私にとってはソウルは全然いい方だった。
「劇場のトイレも紙流したらあかんのですよぉ」と嘆く若手俳優の顔を見ながら「みんな、日本に来るインバウンドがトイレに感動してるニュースとか知らんのかな」と、冷めた顔で眺めていた。
 しかし、帰国して空港でトイレに行った時に「やっぱ、日本のトイレ天国やな」と流石に思ってしまった。隣の芝生は青く見えるというが、トイレ事情だけは違うと改めて思う。
他国が遅れているのではなく日本が異常に進んでいるとしか言いようがない。だいたいウシュレットの「おしり」と「ビデ」の間にある「やわらか」ってスイッチは何だ? と帰国してから初めて気にするようになったが、あれは老人や痔の人への配慮らしくお湯がソフトタッチで出るようになっているのだ。トイレに入った人のそんなところまでケアするって… 他に考えること沢山あるやろう? とツッコミを入れたいが、下には寛大なのだろうか我が国は。