
- セクハラの危機
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今年から京都の大学で演劇を教えている。身体の使い方や、人に伝わりやすい喋り方、コミュニケーションと、演劇の最初は人間を学び、人と一緒に何かを作るためのレッスンだ。一般の人にも決して突拍子のないものではない。
そして物語を演じる限りは、愛憎についても分析し、理解しなくてはならない。と書くと難しいが、早い話が人の恋愛感情についても、あれこれと考えなくてはならないわけだ。
「恋をしている男は、こういう時に女の傍に居たがる」とか解説しながら、生徒に恋愛中の男の行動を再現してもらったりもする。
そんなある日、学校側から「ストップ セクシャルハラスメント」という冊子が講師全員に配られた。
「授業中にセクシャルな話題や作品を紹介したり、セクシャルなテーマの企画を行う場合→教材として取り上げる場合はセクハラには当たりません。ただし、内容によっては嫌悪感を持つ学生が居るかもしれません。予め「これから少しセクシャルな話をしますが、嫌な人は聞かなくていいです」とアナウンスするといいでしょう。」というようなことが書かれていた。
これって…恋愛ものの芝居を教える時に、いちいち生徒に言うのか?と演劇教育の場がいかにセクハラと隣り合わせかと、ため息が出た。
他にも生徒と一対一で飲みに行くことを避けようとか、特定の生徒にむやみに触るなという内容が連なっている。生徒に慕われると思ったら大間違いなので自惚れないように!という意味のことも書かれている。なんでも教育の指導的立場ある者が不適切な言葉や教育を施すことは「アカデミックハラスメント」という言うらしい。
おまけに、これらのハラスメントはあくまでも受けた側の判断であり、客観的な基準はないとハッキリ書かれていた。
芝居を教える立場としてはまさに「どないせーちゅうねん?」と言いたいところだが、先輩の演出家に酒の席でそれを言うと「ああ、気を付けた方がええで。僕、大学で教えてた時に、演技つけるために女の子の腰抱いたことあるけど、2年くらいしてから嫌でしたって言われたことあるから」としれっと言われた。うーん…難しい。
生徒たちにそれを言うと「演劇を習う人間にはそんなの気にする人いませよ」と呑気なものだが…当面、恋の演技は教えるまい。お姫様抱っこを軽々とする方法なんて絶対封印だ。大学を卒業してから教えてあげるか。