
- 義理
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日本人は義理と人情が好きだ。特に義理に関しては社会性の一環として見られる。義理飲み、義理チョコ、義理ゴルフ…会社に入ったらいきなり義理、義理、義理の世界で財布はいつもギリギリになる。
私たち演劇の世界にもある。いやあるなんてものじゃない、ほとんど義理のオンパレードのようなものだ。東京で芝居の公演をするとお客の3分の1は演劇人である。来てくれた友達に「今度、うちの芝居あるから観に来てね」と言われたら、当然お返しに観に行く。そして永遠の義理観劇のループにはまってしまうのである。これは例えばプロ野球の選手が他のチームの試合を頻繁に観戦に行くようなもので、ちょっと異常なんじゃないか?と私は思っている。
大きな劇場の公演になるとますますその傾向が強くなる。中でも、亡くなった森光子さんは義理の世界の女王だったようだ。なんせ、ちょっとセリフを噛んだいうだけで、関わっていただいてる役者さん、スタッフさんに申し訳ないと「森そば」をふるまったという。「いやいや、それやったらお客さんに配りぃな」とは誰も突っ込まなかったのだろうか。
ちなみにそれ以外にも「森おでん」「森カレー」と呼ばれる振る舞い日があったらしく、森光子特別公演に関わったら、カンパニー一同いつも豊かな食生活で満たされていたとか。
主演スターは高額なギャラをもらっているかもしれないが、その分使っているという典型的な例である。うーん、いっそギャラをうんと下げて、義理の世界のしきたりを全部止め、その分チケット代を安くした方がいいんじゃないかと思うが…それは演劇人の端くれとしては言わぬが義理のなんとやらだろうか。
だが正直、義理で観る芝居は辛い。面白ければいいのだが、つまらなかったら最悪だ。楽屋に顔を出さなかったら「面白くなかったから怒ってるの?」なんてメールが来る場合もある。「自分のやってる芝居が面白いかどうかくらいプロだったら自分で判断しろ!」と心の中では思うが、「そんなことないよ。楽屋混雑してるみたいだったので帰ってしまいました。芝居の感想はまた飲んだ時にでも言いますね。千穐楽まで頑張ってください!」などと返信する自分に「義理堅いなお前」と声をかけてあげたいくらいだ。
いや、面白い芝居もいっぱいあるんですけどね。日本人はもう少し義理の使い方を変えた方がいいと心から思う今日この頃なわけです。あなたの周りの義理は正常ですか?