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大阪ん♪ラプソディー

転がる年
 仕事でも趣味でも生活でも、なんにでも波というものがある。自分では何も変えたくないと思っていても勝手に運命が転がっていく年もある。今までにも何回かあった。私はそういう年をローリングストーンの年と勝手に呼んでいる。抗うより巻き込まれて転がった方がいい年。
 いや実は昔見た「サンドイッチの年」という映画の受け売りである。1989年のフランス映画で戦争孤児の少年が「誰の人生にも『サンドイッチの年』がある…」と聞かされるシーンが印象的な作品だった。受け売りと言っても「○○の年」という言葉だけだが。
 運命が転がるローリングストーンの年。なんだか今年はそうなりそうだ。自分では予期しなかったことがすでに幾つも起きている。
 その中でもびっくりしてるのは、50代半ばにしてスノーボードをしたことである。友人の実家が新潟でスキーロッジを経営している関係から、時々手伝いに行ってはいた。
 しかし雪の降らない大阪で育った私はウインタースポーツとは縁もゆかりもない。子供のころから剣道や水泳は習っていたが、ほぼインドアの、個人種目ばかりである。
 高校の時に友達に「泳ぎに行こう」と誘われて海に行った時も、ひとりだけ競泳用の水着を持って行った。というかそれしか持っていなかったのだ。海に着くと「ラインがないから泳げない」と本気で思い、楽しそうに水遊びをしている友達を見ながら「なんじゃこいつらは?」と思うような女の子だった。
 スキーに誘われたこともあったが、その時点で芝居を始めていたので、先輩から「スキーだけは止めておけ。お金がかかるし、ケガをしたら本番に出られないから」と言われて、行ったこともないし興味もなかった。
 そんな私がスノーボードをする。明らかに自分の意志ではないが、毎年のように手伝いに行ってるのでロッジのオーナーが「今日は最高のコンディションだよ。転んでもケガしない雪だ」と言ったのをきっかけに連れて行かれたのだ。
 人生初のアウトドア。人生初の滑るスポーツ。人生初の雪山である。ケガしないか何か知らないが、転びまくっては起き、また転びまくっては雪を食らった。これが本当のローリングストーンの年だ、なんて上手いこと言ってる場合ではないくらい転んだ。
 それでもなんとかゆっくり自分の行きたい方向に行けるようになったころ、ボードの上に立って雪山の斜面を下りて行く時に「ええ気持ちやなぁ」とつぶやいていた。首筋に抜けていく風の冷たさ、白い雪、青い空、なんと地球の美しかったこと。ああ、どうやら癖になりそうだ。
 人生まだまだ何が起きるか分からないものだ。今年はいろんなものに巻き込まれてみようと思う。