
- 見るべき背中
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先日まで大阪の松竹座という劇場で上演されていた芝居の脚本と演出を担当していた。次は大阪の門真というところにある市民劇団の演出だ。今年はあと6本も仕事が控えている。こんなおばさんに仕事を依頼して来てくれる人が沢山いるなんて有難い話である。
私はかつて漫画家を目指していたが、縁あって演劇に辿り着いた。ミーハーで、勉強なんかそっちのけで学生時代を過ごしたが演劇を知ることで物語や音楽、表現、なによりも近代史を知ることになった。
学校では決して教わらなかった近代史。それが演劇に携わることで明治、大正、昭和を生きた人達の足跡を知り、感じ、噛みしめることになった。
今でも自分の糧にしているのは、杉村春子さんが戦争中に「女の一生」という台本を着物の中に縫い付けて持っていたという話だ。いつ空襲で死ぬかもしれないから仲間と分散して持ち歩いていたという。先人の命がけの努力なくして、今の自分たちの自由な演劇活動はなかった。ということを身近に感じゾクゾクしたものだ。
半年ほど前に「戦禍に生きた演劇人たち」(堀川恵子著 講談社)という本が出た時にタイトルだけで泣きそうになった。戦争中にどれほどの先人たちが亡くなったことか。表現の自由を奪われ、投獄され、中には拷問を受けたりしたことか。そんな話をたくさん聞いて来たので読むのに覚悟がいるだろうと思ったからだ。
この本は八田元夫というひとりの演出家の戦前、戦中、戦後を通じて、演劇界に起きた事実を描いている。やっぱり泣かずにはいられなかった。
自分に直結したルーツは血の繋がりだけではない。影響を受けた世界の先輩たち、魂の先祖を敬うことも必要だ。日本人はもっともっと近代史を知るべきではないだろうか。大切なことは先人が生きざまとして教えてくれる。それなのに背中を追わなかったら、何も繋がって行かない。
日本の現状に危機感を持つというのなら、人の在り方に持つべきなのではないかと思う。