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大阪ん♪ラプソディー

若者よ!
京都の芸術大学で芝居を教えている。非常勤講師というやつだ。ま、一年を通して生徒に芝居の演出をしているので、先生という感じではないが。
 今年のクラスは27人。今まで全く接点のなかったメンバーである。演劇の現場の中でも誰一人知らない役者を演出する機会はあまりない。長年やっていると誰か一人くらいは知り合いがいるものだ。
 芝居作りはともかく知り合うことが大事なので、初めての授業は自己紹介と、質問の嵐だった。原則として将来何を目指しているかも聞かせてもらうことにした。生徒の中には本気で演出家になりたい子も居れば、大学時代だけ演劇を学びたいという子も居る。他の大学と違って、誰も彼もが同じように一般就職を目指しているわけではないので、そのへんのバランスをとるのも私の役目だ。
 たいていは「将来は俳優を目指しています」「演出家になりたい」と言うか「学校を出たら就職して、演劇を学んだことを社会に生かしたい」と答えるのだが…シンヤ君という生徒は「こんな時代ですので、ともかく将来は生きていたいです」と言い放った。
 「ん? こんな時代って、あんた幾つ?」
 「20歳です」
 「他にどんな時代知ってるの?」
 「いや、別に知りませんけど…なんかテレビとか見てたら、年金も貰えなくなるって言うし、震災以降不穏な世の中だし、いつ戦争が起きるかもしれないって言うし、とりあえず生きていたいです。」
 という会話が続いて、私は彼が完全に大人のいう事を鵜呑みにして言ったのだなと理解した。
 ものすごく他人任せな思考である。しかし、シンヤ君の言葉は実に今の若者の心理でもあった。若者に「大きな夢を持て」とか「もっと自由な発想しろ」なんて大人の勝手な期待でしかない。彼らは堅実に自分の上がっていく階段を見つけたいのだ。
 現代の若者が求めているものは予想できる結果である。どうなるか見えないけど登ってみるなんて山には近づかない。だって、どうなるか分からないから。情報が的確に届く世界で育った彼らは堅実で現実的なのだ。
 演劇は夢を売る商売と言われているが、生存して行くにはかなりリスクの高い世界である。食っていける人間は本当に一握りだ。
 シンヤ君の希望が「演劇界で生きていたい」となると、笑っていられない言葉になるだろう。この1年間の彼がどう変わっていくのか楽しみだ。