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大阪ん♪ラプソディー

良かれと思う思い。
 先月まで「ワンダーガーデン」というタイトルの男優四人が四姉妹と、その伴侶や恋人の二役ずつを演じる。究極の四人芝居というのを書いて、演出していた。
 設定は東京にある洋館のサンルームである。そこで起きる姉妹の20年間の物語だった。舞台美術セットをデザインしたのがSさんという映画のセットなんかを作っている美術家だった。
 舞台は表現の世界なので、象徴的な小物だけ使い、すべてが本物でなくてもいい。しかし、映画の場合はより凝った本物の世界が要求される。Sさんが今回作ろうとしたサンルームのセットはその中間のような世界で唐草模様の欄間で飾られたゴージャスな感じのものだった。
 しかし、この欄間を切り出すのに実にお金がかかることが判明し、あっちこっちに飾られていたものをどんどんカットすることになった。お終いには「ここだけは残したい」という彼の美術家としての思いも虚しく全てをカットすることになった。
 大道具を製作してくれている工場の社長もなんとか金額と折り合いをつけようと四苦八苦してくれたのだが、演出家の権限で私が止めにしたのだ。そうしないと現場で帳尻を合わせることになり、泣くのは下請けだったからだ。
 ところが、諦めきれなかったのだろうかSさんはカットになった欄間を自分のアトリエで勝手に作ってしまった。
 これには実に困った。お金を預かる制作、芝居を作る責任者の演出家、舞台の進行の責任を持つ舞台監督を全て無視して「良かれ」と思って作ってしまったわけである。予算が合わないからと諦めてもらった工場の社長にしてみれば、何のために悩んだのか分からない事態だ。
 しかしSさんはちっとも悪いと思ってはいなかった。むしろ自分のデザイン通りに作れて良かったと思っていた。しかもその製作費は請求して来ない。つまり持ち出しというやつである。
 私だって自劇団の場合は何かと自腹を切る。しかしあの欄間は度を超えていた。が! 実際にあの欄間があって舞台はより美しく飾られ、お客様の満足度も上がったであろうことは否めない。だから結果として「良かった」のか? 感覚の違いと言ってしまえばそうなのかもしれないが、実にもやもやした気分が残る現場になってしまった。
 あれから「良かれ」ってなんだろう? とずっと考えている。