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大阪ん♪ラプソディー

喫茶店の話
 うちの近所に「アメリカン」という昭和な雰囲気の喫茶店がある。私が小学校の頃からあったので50年くらいやってると思う。
 昔はハイカラな店だったのだろうか、店名がいかにも時代を感じさせる。中に入ると、なんと初期型のテレビゲームがまだ置いてある。最初のインベーダーゲームが出来るやつだ。高校の頃、あれに100円玉を何十枚吸い取られたことだろう…。
 そんなアメリカンに、うちの母が行くようになったのは、これまた30年前くらいからだ。お嬢様育ちなので、人がタバコを吸った煙が蔓延してるところなんかに絶対に行かない人だったが、60歳くらいから性格がちょっと寛容になり、友達と喫茶店に行くようになった。(なんぼほどお嬢さんやってん! という話ですが)
 時が喫茶店の経営方針を変えたのだろう。母が通うようになった頃には若者の姿は消え、地域のお年寄りのたまり場と化していた。メニューも減塩を心掛けたお弁当とかに変貌し、ちょっとした町内サロンみたいな感じだった。
 料理をしない母は、80代になるとほぼ毎日そこに通い、食事をとるようになった。近くて、便利で、メニューのことも考えてくれて、おまけに友達とも会える場として日参していたのだ。
 さすがに2年ほど前からデイケアに通いはっじめたので足が向かないようになったのだが、先日の日曜日のことだ。母が一人でトボトボ歩いていたので追いかけて行ったら「アメリカンに行くねん」と言う。
「今日は日曜日やからやってないんちゃう?」と聞くと「やってるよ。マスターがそこまで迎えにきてるやん」と言うではないか。見ると確かに店の向かいの公園の前でマスターが待っておる!
 母は耳が遠くて、最近は電話もかけないし、出ない。もちろん携帯なんて持っていない。アメリカンからは死角になっている実家から母が歩いて行っても見えないはずなのだが…時間に正確に行く能力も今はないし。
 いったいどうやってマスターは母を迎えに出てきてくれたのだろうか? エスパーなのだろうか? 偶然なのか? 長年のカンなのか? カンで商売してていいのか?
 長年の深い信頼関係ですっかりお世話になっている喫茶店アメリカン。遠くの親戚より近くの他人と昔から言うが、本当に足を向けて寝られない。ありがたやぁ〜。
 ちなみに件のインベーダーゲーム機は机の代わりになっているが。ママさんに言わせると「業者が取りに来ないんで、置いてるの」との事。何十年前の話なのか…あそこは時が止まった空間らしい。