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大阪ん♪ラプソディー

新しいお仕事
去年の秋から1年間、「男はつらいよ」シリーズや「幸せの黄色いハンカチ」の映画監督、山田洋次さんと一緒に仕事をしていた。以下監督と書かせていただく。
 本来は映画監督であるが、数年前ご自身の「家族はつらいよ」という映画の舞台化を成功させている。その時は東京で上演し、劇団新派の本公演として上演された。
 今回はそれを大阪弁に仕立て直し、松竹新喜劇の公演として「大阪の家族はつらいよ」として上演したいということで、私に白羽の矢がぶち当たったわけだ。大阪弁の脚本化と、監督の演出助手をしてくれというのだ。
 この話が来た時に「はい、そうですよ。私は大阪弁の人情劇を書くのが得意な劇作家で、演出家で、ジジィキラーと呼ばれていますよ。それが選ばれた理由ですか?」と、つい聞いてしまったが、松竹の担当プロデューサーが「その通りです!」と即答したので、行くことにした。
 周りには「失礼だよ、演出家に対して」「便利使いじゃない? 辞めておきなよ」という人もいた。しかし私は仕事に節操がない。元々スポーツ選手だったのが絵を描き始めてデザイナーになり、先輩に誘われて芝居の世界に入ったくらいである。絵を描いていたのに、今では劇作家と呼ばれているのもどうよ? という感じだ。
 それに無類の人好きなので「山田洋次ってどんな人か知りたい〜」という気持ちが抑えきれず、プライドも何もなくホイホイ行ったのである。  結論から言うと監督はすげぇジジィだった。
頭のいい人なのは最初から分かっていたが、新しいことを吸収したいという欲望と、今までの知識と経験と、思い出話と、これから起きるケミストリーへの期待がいつもごちゃ混ぜに同時進行しているような人で、話がどこから飛んでくるかわからないボールのようにビュンビュンと投げ込まれる。
 それを受けたり、返したり、取りそびれたのをうまく胡麻化したりする日々。創造する悦びってこういうこと言うんやろうなぁ・・・と感じながら、舞台の幕を開けるという期限のある仕事に向かって行く緊張感。長く芝居をやってきたが、映画監督と舞台を作るという稀有な体験をさせてもらい、本当に面白かった。
 「なんか、わかぎさんを助監督にしたいって言ってるわよ。会議で言ってたわ」監督のマネージャーさんからそう聞かされたのは舞台の稽古に入ったころだった。
 「いやいや、私、舞台の人間ですから!」と答えて慌てて逃げたが…人生は何が起きるか分からないから楽しいのも事実だ。さて、どうなりますことやら…。