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大阪ん♪ラプソディー

やる事、なす事
あれは2月の末だっただろうか。仕事帰りにスーパーを通ったので買い物をして帰った。
「あ、そうだキッチンペーパーがもうすぐ切れるな」と思って手にした時に、ものすごく高いところまで積みあがっているのを少し不思議に思ったものだ。
 「いつも、こんなに積んでないのに?」と見上げた。トイレットペーパーもメチャクチャ沢山あった。「明日からセールなんかな」と思ったくらいだ。
 で、次の日にあのトイレットペーパー事件が起きた。日本中のスーパーやコンビニから紙がなくなっているというニュースを見た時に「へぇ、うちの近所、めっちゃ有ったけどな」と呑気に笑っていたものだった。当然、その日の昼過ぎに同じスーパーを通りかかって唖然とする羽目になった。
 昨日の夜、12時近くに寄った時は背の低い私が手を伸ばして買ったほど山のようにあったキッチンペーパーもトイレットペーパーも跡形もなく消えていた。
 たった半日の間にいったい誰がどれだけ買ったんだろう? 第一、家に一袋くらいはストックもあるだろうに…と日本人のパニックぶりに呆れたものだった。
 思えばオイルショックのあった1970年代、私は中学生だった。あの時は本当に紙という紙が世の中から消えて、うちの母がトイレのチリ紙の間に切った新聞紙を混ぜて「昔はこうやった」と自活ぶりを自慢していたのを思い出す。
 週刊誌の漫画の本がどんどん薄くなっていき、お終いには半分くらいになったのに同じ値段だったのが切なかった。当時、漫画家に成りたかったのでケント紙を使っていたから「紙無くなったらどうなるんやろう?」とちょっとドキドキしたのを覚えている。
 誰かが「オイルショックの時の恐怖感で、今回も年寄りがトイレットペーパー買いあさってるらしい」などと言っていたが、そんなこと決めつけて言うんだなぁと、うんざりした。
 そうかと思ったら、最後の一袋だったトイレットペーパーを買った人が、買いそびれた女性に半分分けてあげて、恋が芽生えたという話が聞こえて来たり。
 テレビを見てたらタレントさんが「劇場で芝居やってたら行きたくなっちゃうじゃない? 体調管理は自分でしろって言っても、行きたくなるように仕向けてるよな」なんて言っていた。自分は劇場に足を運んだこともなさそうな人が、安全なところからそんな意見を言ってまかり通る世の中だ。
 友達の芝居の公演が次々と中止になっていく中で、私は自分の劇団の4月公演を決行することに舵をきった。芝居は私の仕事だからだ。戒厳令でも出ない限り、出来る公演があるならば1ステージでもやるべきだと思っている。
 ドイツ、フランス、韓国などでは文化人を守るために緊急予算が組まれたという。イタリアでは有名なテノール歌手が自宅のベランダで歌って近所の人を勇気づけたという。
 こんな時、人間は何をするべきか? どうあるべきか? と本当に考えさせられる。冷静に、出来ることをキチンとするという事の難しさを改めて実感中だ。
 どうかこの事態が一日でも早く収束しますように!