1. ホームへ戻る
  2. 大阪ラプソディー

大阪ん♪ラプソディー

  先日、大阪で「ターニングポイントフェス〜関西小劇場演劇祭」というものがあった。私も実行委員の一人として何かとお手伝いさせてもらった。
 コロナの渦中、大阪では一つの劇団が劇場を借りて公演するというリスクが背負いきれない事態が起きている。もちろん大阪だけではない、東京も、日本中、いや世界中で同じことが発生している。
ニューヨークの劇場は軒並み今年いっぱい開場を見合わせているし、ロンドンでは8割の劇場が倒産に追い込まれているという。
 不要不急の外出禁止と言われると、我々の世界は真っ先にやり玉にあがる。演劇や音楽が出来ない期間を支援してくれる文化予算の多い国もあれば、日本のようにほぼ皆無の国もある。いずれにしても世界中の文化がピタリと止まったままになった2020年を私たちは忘れることは出来ないだろう。
 そんな中で、若手の劇団の座長F君が連絡してきたのは6月くらいだったろうか。まだ緊急事態宣言が明けたばかりで、世の中が動き出して間もない時だった。
 「劇団で9月に劇場を借りてたんですが、うちの劇団だけじゃやれないんで、いっそ演劇祭をやろうと思うんですが参加してくれませんか?」と言うではないか。
 一つの劇団で乗り切るには脆弱すぎるので、みんなで手を繋ごうというわけだ。しかも配信もするという。さっそく知り合いの劇団などに声をかけるとあっという間に18団体集まった。全ての人がノーギャラである。ただただ「今、多くの人の前で舞台に立てる機会をありがとう!」という思いだけで快諾してくれた。
 私は本来「祭りやろうぜ!」「よっしゃ!」みたいなノリには着いていけない人間だ。「あーやるんや。どうぞどうぞ」と達観し、なんなら行かないタイプである。子供の頃から暑苦しい青春謳歌みたいなものが大嫌いなのだ。
 しかし、今回ばかりは真っ先に乗った。そして思い切り渦中で働いた。演劇が弱って死ぬような事態を見て見ぬふりなんか出来ない。劇団は止まっているだけで元気に存在しているということを大阪中の人に、全世界に見てほしかったからだ。
 と、まぁ美談は尽きないのだが、実際には18団体すべての参加者に稽古中からの検温、手洗い、うがいの強要。本番3日前から体調不良のメンバーが出た場合は、その団体の撤退という規定も作られた。もちろん本番中も厳重なチェック体制を敷き、密にならずに他の参加団体ともほぼ会えないという厳戒態勢の中での祭りである。
 お客様にも入場前に検温、アルコールで手を消毒してもらい、上演中もマスク着用という、まことに窮屈な状況で観劇してもらう事になり、これで本当に盛り上がるのか? 大丈夫か演劇祭?という不安は募る一方だった。
 そうして始まった2日間だったが、有難いことに大いに盛り上がり、配信も何千人もの人が見てくれた。録画をアーカイブで見られるシステムもありまだ増えるだろう。グランドフィナーレが終わり、舞台袖に入った瞬間にちょっと落涙しそうになったが、主宰のF君がでっかい身体で私に抱きつき「ありがとうございました」と泣き出したので「密!」なんて言いながら宥めて泣かずにすんだ。
 「独りじゃない。集まれば何かできる!」そんな秋の始まりだった。これが関西小劇場界の本当のターニングポイントになり、皆が芝居を上演するという勇気と決断を始めてくれたら、祭りは成功したと言えるだろう。是非そうあって欲しいと心から願っている。