大阪ん♪ラプソディー【第3回】

大阪ん♪ラプソディー

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「大事な報告」


 この間、近所のうどん屋に入っていたら…(大阪では「そば屋」とは言いません。地方の方に念のため)隣に初老の素敵なおじさんが座っていた。
 しばらくするとキツネうどんが運ばれてきて、彼はお上品にそれを食べていた。と、そこに携帯電話のコール音が鳴り出し、おじさんがポケットからそれを出して電話に出た。
 「もしもし?ズルズルッ…ああ、わしや。ズルズルッ」と、片時もうどんを食べる行為を止めない。  私は横に座っていたので、その起用さに呆れながら心の中で「そない食いたかったら後でかけ直したらええやん!」とツッコミを入れた。うどん一杯食べるのにいったい何分かかるというのだろうか?しかも彼はほとんど会話していないのである。相手に聞こえるのはズルズルッと時々「はぁ」という美味しいものを食べたらつい口から出る歓喜のため息だけだ。
 しかも「なんか用?ズルズルッ…ああ、そう。ズルズルッ…はぁ…そうや、今うどん食うてるねん。美味そうな音やろ?ズルズルッ…ほな後でかけ直して」と言って切ってしまったのだ。
 「おーい!切るんかいっ」と本当に口に出して言ってしまいそうになったが、おじさんはその後も一気にうどんを食べ、美味しそうに汁をすすって満足そうに出て行った。
 実に大阪らしい人であった。「うどんか電話相手か?」を天秤にかけることなく、確実にうどんを選ぶ態度は立派と言える。だったら電話に出るなとも言いたいが、相手もうどんを食べているのだったら仕方ないと納得してかけ直してくるのだから、ここは全てにおいてうどんの勝ち、いや価値が勝ったというところだろうか。
 美味しいうどんを食べている時は邪魔されたくない気持ち。これは大阪人にとってかなり重大事項である。ランクで言うと「一位、肉親の生死に関わる連絡。二位プロポーズの瞬間。三位、うどんを食べる時間」くらい重要かもしれない。地方の人はそのへんの大阪事情をよく把握してうどん屋に入ってほしいものである。
 しかしおじさんというのは、律儀に携帯電話に出る人が多いようだ。そのうどん屋でもうひとり食べてる最中にかかってきた電話を取った人がいた。
 もっともその人は「もしもし、いま?うどん食うてるから」とすぐに切ってしまったので、たいした用事ではなかったようだが「後でええやん!」とやはり心の中でツッコミを入れてしまった。

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