大阪ん♪ラプソディー【第101回】

大阪ん♪ラプソディー

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「久しぶりの感覚」


 京都の大学で芝居を教えている。三回生のクラスを一年かけて演出して、最後に授業発表公演をするのである。普通の演出とは違って、学生相手に授業をするわけである。だから普段は言わないことも丁寧にやる。
楽しいが疲れる。今年で4年目になるが、毎年「大変やなぁ」と思うわけである。当然、授業が終わった後は大阪まで帰る前に「まずビールやな」と出町柳の付近で一杯飲むわけである。ついでに夕食も済ませることが多い。
先日、前から時々寄っていたカフェに入って、今まで頼んだことのないビールと、カレーを注文した。メニューにわざわざ「茄子とひき肉のカレー」と貼ってあるので、新しいメニューなんだろうなと思って試してみることにしたわけだ。
「ビールです」と女の子が持って来てくれた瓶を持ち上げると、なんと瓶が常温だった。「ん?」と思ったが、グラスに注いで飲んだ。
常温だった。メニューを見たが特別常温で呑むタイプのビールでもなんでもない。
 「やられた…」と思ったが、仕方ない。口をつけてしまったのだから。しかし仕事帰りに飲むビールがぬるいなんて、こんな悲劇が今の日本であるのだろうか?と思うと、隣のコンビニに飛び込んで一本230円の缶ビールを飲み直したい騒動にかられた。
 「いやいや、カレーを食べないと」と平常心を保つことにし、待っていたら「茄子とひき肉のカレーです」とさっきの女の子が持って来た。
 目の前に、うすい緑とも紫とも言えない不気味な色のしゃぶしゃぶしたスープの中に、ご飯と、固まったひき肉と茄が何切れか浮かんだ「カレー」とは程遠いものが置かれている。
 「ん?」と再び思いながら、私は恐る恐るその半透明のスープを口にした。チキンスープの素と、塩の味がかすかにする。カレーは? これはカレーのはずだ。カレーの味はどこにする?と舌の中で探したが、全然しない。
 「店の人間を呼ぶべきか?いや、このまま食べてエッセイのネタにするか?」一瞬悩んだが後者にしたわけである。そしてまず携帯で証拠写真を撮った。
 今の日本に住んでいて「不味い」ものを食べようと思っても、なかなか探せないものだが、ここまでくると「あっぱれだ!」と言いたくなるほど不味かった。
 ひき肉は固まってバラつきがあるし、茄子は色が抜けている。ということは切ってそのまま鍋に入れたのだろう。この不気味な色の原因の一つは茄か。と納得した。
 それにしても、ここの料理人はカレーを見たことがないのだろうか?日本に生まれてカレーを見たことのない人間なんか要るのか? もう頭の中で想像が想像を生んで、大変なことになった。
 ぬるいビールと不味いカレー。なんという取り合わせだ。ある意味大当たりだった。ちなみにカレーは何口か食べるとほのかにグリーンカレーの味がした。お値段合わせて1830円。
 完食せず、ビールもカレーも半分残して店を出た。「あのお客さん残してる、なぜだろう? と思ってね」という気持ちからだが、気が付くわけないか… 当然のことだが、店を出て、その足で隣のコンビニでビールを買って駅のベンチで呑んだ。最高に美味しかった。  

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