ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第108回】
古い大阪弁、しかも船場という限られた世界の商人言葉に「ぼんち」という言葉ある。商家の坊ちゃんのことを言うのだが、器の大きい立派な人のことを指して、そう言ったらしい。
「あそこお店のぼんぼん、並の商人やないで。度胸もええし、愛嬌もあるし、立派なぼんちやで」と言う風に言ったのだろう。
私の知っている「社長」さんの中に何人か、このぼんちが居る。運送屋の2代目だが、子育て支援のNPOを立ち上げて走り回っている人や、建設会社の跡継ぎだが運送屋と、バームクーヘン屋もやってる人も居る。「運送会社にいちいち頼むより会社起こした方が早かったんですよ。お中元やお歳暮も自分とこでバームクーヘン作ったら配れますしね」という発想らしい。
そして、この三協精器の社長、赤松さんもその一人だ。何年かこうやってエッセイの連載をさせてもらっているので、お会いしたり、SNSで繋がったりしてるので、素顔の片りんは知っていた。しかし数年前に「札幌にお店を開くので、機会があったら行ってみて下さいね」と言われた時は正直「はぁ?」という反応しかできなかった。
「お店って… バネの?」みたいな想像をしたからである。しかしよく聞くと、ラム肉の焼肉屋さんであるらしい。当然だが頭の中で「なんでまた?」という言葉があふれ出た。
しかし赤松さんは、私の疑問をすっ飛ばして北海道の魅力とラム肉の話で突き進んでいたので、最後まで聞けずに割引券をもらって帰った。
折しも、うちの劇団で札幌公演をすることになり、頂いた割引券を持ってそのお店に行ってみた。美味しかった… なんてもんじゃなかった! 旨すぎるではないか! 本格的ではないか!「え? 本気やん」という言葉が今度は口から出た。
貧乏人の私の発想では、社長がちょっと北海道が好きで、居酒屋とかに出資しているイメージだったのだが、全然違っていた。
その後「遂に士別に羊の牧場を持てるようになりました」とご本人がSNSで書いているのを読んで「やっぱり本気なんや」と確信したのだった。
この度、なんとその系列店が大阪は北新地にオープンした。その名も「士別三協ファーム直営『士別バーベキュー はなれ』」という本格的なラム肉の店だ。役得でプレオープンにご招待して頂いたので、スキップして行ったのだが、やっぱり旨すぎた! いや札幌店より美味しかったような…
お肉はもう何もいう事はないのだが、最後に出て来たティラミスがこれまたイタリアのどこで食べたのよりも美味しかった。「そっか、北海道から色々食材も直送してるんやもんなー」と納得したような次第だ。
その日、赤松さんはニコニコと各テーブルを回って挨拶したり、店員に指示したりして走り回っていた。「この人。何者なんじゃ?」とその姿を改めて見たが、やっぱり一言で説明するなら、正真正銘の「ぼんち」である。
自社の連載エッセイで社長を褒めるというのは、奇妙な感じではあるが書かずにいられなかった。古い大阪弁というが、ぼんちは今も健在だからだ。