大阪ん♪ラプソディー【第11回】

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「怖い話」


 私たち演劇をやっている者は、芝居の衣裳や小道具も自分たちで作る。先日やった芝居では、昭和初期の設定で大きな料亭でお見合いをするというシーンがあった。
 お見合いをするカップルがやってきて、出されたお茶にもお菓子にも手をつけられないでモジモジしているという話だったので、実際のお菓子を使うと勿体無い。
 ということでお菓子は作り物で行きましょうという話しになった。ちなみに本当に食べられるものを舞台用語では消え物といい、ステージ数が嵩むとそれなりに予算を食うのだが、作り物だと一個で済むわけだ。
 で、紙粘土で和菓子を作ることになった。
しかし、若い小道具部の男の子が和菓子を見たこともないという。しかもなかなか調べにも行かないので、ある先輩が和菓子屋の商品カタログを貰ってきた。
 すると彼は受け取りながら「ありがとうございます」と、笑ってお礼を言った。一見すると気持ちのいい話である。親切な先輩、礼儀正しい後輩という構図だが…本来は彼の仕事だったのである。
 「すみません。僕の仕事やったのに」と言うのが筋だろう!と言うことなのだが、最近は多くの人が「ありがとうございます」という言葉に誤魔化されてないだろうか?
その時はカタログを貰ってきてあげた方の先輩が「いいよ」と流してしまった。
 これではいけない!と私は思う。お礼とお詫びは大いに違い、若者たちはお礼さえ言うと許されるようになってきてないか?危惧しているからだ。
 たかが小道具のカタログの話だが、「ありがとう」と言って受け取っただけの彼は今後自分で何かを探す時に動けるのだろうか?と懸念する。
 日本の大人は優しくなったが、本質を見失ったのではないのだろうか?「ありがとう」と言う前、言われる前に、本来はどうするべきだったか冷静に考えないと、優しいだけで人を育てられない人、甘えるだけで動かない人が増加していくように思う。
 とても怖い話だ。

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