大阪ん♪ラプソディー【第111回】

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「あ、ごめんなさい」


 今から書くことは本当にあった恐ろしい女のイジメの話である。この出だし、陰湿な感じがするだろうか? まぁしかし本当の事ではある。
 なんでそんな話題に手を付けたかと言うと、先日地下鉄に乗っていて、向かいに座ってる女性を見たからだった。
 彼女は少々大柄な感じの人で、その上体型を隠すようなフワッとしたワンピースを着ていた。そのまま洋服が広がるような感じで座っているので、2人分の席を占拠していた。
 それは京都から大阪に戻る特急で、途中の駅でわりと人が乗って来たのだが、その人は広がったスカートを寄せたり、座り直して詰めるという行為をせずにそのまま座っていた。
 と、一人の初老の紳士が、その斜めくらい前に立った。さすがに詰めるかなと思って見ていたが、平気な顔で座ってスマホをいじっていた。
 「ちょっとスカート寄せたら、あと一人くらい座れるのに」と思っていたら、なんとそのお爺さんが「お嬢さん、ちょっと寄ってもらえますか?」と直談判したのである。
 くだんの女性は初めて気が付いたように「あ、ごめんなさい。どうぞ」と身体と広がったスカートを寄せて老人に席を作った。もちろん紳士は悠々と座れるスペースが空いたのを見て満足そうに終点まで座っていた。
 それを見ながら私は「分かっててやる」人種のことを思い出した。今目の前にいる彼女は自分の身体が大きいのでゆったり座りたいから、わざとスカートを広げて席を占領していたのだろう。それを指摘されたから「あ」と言って謝り、まるで悪い事をしてなかったかのように振舞う。こいつは悪い事をする人種の中でもかなり悪質だと私は思う。
ここからが、ずいぶん前にうちの劇団で起きたいじめ事件の話である。ある現場で、主演女優の着替えを手伝ったのだが、いつもは劇団に入って間もない若手Cちゃんの仕事だった。
その日はCちゃんも居たが、私も手が空いたので手伝いに行ったのだった。主演女優は私に「演出家に着替えまで手伝ってもらうなんて、感激です」とか言いながら、早替えをしていた。
ふと足元を見るとCちゃんが床に這いつくばるような格好で彼女の脱いだ衣裳を引っ張っていた。
しかし、しっかりと本人がそれを踏んでいたので「踏んでるから、足上げてあげて」と言うと、主演女優は「あ、ごめんなさい」と答えて足を上げ、Cちゃんは無事に衣裳を引っ張りだしてハンガーにかけることが出来たのだった。
 一見、何でもない現場の一コマだ。一秒でも早く着替えないといけない主演女優は急ぐばかりについ衣裳を踏んでしまって気が付かない。若手のCちゃんは入ったばかりなので「足を上げて下さい」とは言えず、床に座り込んで衣裳を引っ張りながら泣きそうになっているという光景だった。
 それが毎日の事でなければ… である。そうなのだ。主演女優はほぼ毎日着替える時に衣裳を踏みつけていたらしい。そして時々「あ、ごめんなさい。急いでたから」と謝るという。
 私はその話をCちゃん本人から聞いて唖然となった。分かっててやる、そして気が付いたように時々謝る… って質が悪すぎる! これがイジメというやつか、と思うとゾッとした。
 人間は本来美しいと思いたいが、時々すきま風のように邪気を感じることがある。  

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