ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第112回】
母が亡くなって2年、彼女が残した遺産の中に神戸の田舎の土地と小さな家がある。正直、行かないし、どうにも使い道のない場所だ。従兄弟が明石に居るので時々見に行ってくれるのをいいことに放置していた。
母も90代に入ってからはほとんど行かなくなっていたので、たぶん10年近く放ったらかしの状態だっただろう。当然だがそうなると広い庭がジャングル化する。
しかし、都会生まれ、都会育ちの私には実感がなかった。「あの土地いつかどうにかしないとなぁ」と思うもののつい先送りすることが続いていたのだった。
そんなある日、東京の所属事務所からメールが転送されてきた。「わかぎゑふさんの関連の土地について」という内容だ。その人は、うちの神戸の土地の近所に実家があり、そこに行くためには我が家の傍の道路を通って行くらしい。
「そちらの家のブロック塀が傾いていて、いつ崩れるか分からないので連絡しました。」という内容だった。私は驚いて彼に電話をかけて謝罪した。
すると「日本中で起きている問題なので、連絡がついてよかったです」と冷静な声で返事が返って来た。私はその時、はっとした。「日本中の問題」とは「放置家」のことである。テレビなどでも話題になっているし、知らないことはなかった。
ただ、どこかで起きている遠い問題として捉えていた。まさか自分が当事者だとは! しかも10年近くご近所に迷惑をかけてきたわけだ。私は電話の相手の声を聞きながらクラクラした。母の遺産は「加害者」という厄介な代物だったのだ。頭の中で加藤茶の「なんでそうなるの?」という声がこだましていた。
しかし、神戸まで行くことがなかなかできないので、まずは従兄弟に連絡し様子を見て来てもらうことにした。「庭がジャングルみたいになっていて、野生動物とかも居るようだ」「放置ゴミも捨てられている」「どうやらスズメバチの巣があるみたいで、怖くて近づけない」「塀はすぐにどうということはないけど、確かに傾いている」との報告で、写真が送られてきた。
やはりメールをくれた人にとって、塀のことは話のとっかかりで、肝心の要件は「この放置している場所どうするつもりですか?」という問いだったようだ。
それからの私は素早かった。いつも来てもらう大工の棟梁に頼んでスズメバチの巣の駆除、庭の木の伐採、塀の工事が2ケ月の間に進んだ。お値段しめて70万円。なかなか手のかかる遺産だ。
今は知り合いの不動産屋で土地を調べ直してもらっている。自分で管理できない限りは売却するつもりだ。
ところで50歳の誕生日に友達がシャレで金星の土地を1エーカー買ってくれたのだが… 私が死んだ後で「なんで金星に土地もってるねん?」と遺族が困らないだろうか、今回の事を教訓にするとそれが心配だ。