大阪ん♪ラプソディー【第122回】

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「シゲコハウス」


 母が亡くなって3年経った。あっという間だったような気がする。その母の家を徹底的に片付けて整理したのは去年の事だった。コロナで仕事が飛ばなかったら、今頃まだやっていたかもしれない。ともかく産廃屋さんに2回来てもらって、捨てられるものを捨て、各部屋を整理した。
 うちの実家は昔、アパートを経営していた。トイレと風呂が共同で、各部屋に小さい台所が付いているという古いスタイルで昭和な匂いがプンプンする家だ。イノベーションするほど魅力的ではないので、そのまま衣裳や、小道具なんかを各部屋に分けて入れて使っている。
 しかし、それでも2部屋ほど遊んでいる。何かに使えないか? と考えたのだが、演劇人ゲストハウスのようなものをやってみようと思い立った。演劇人と言っても、小劇場の名もなき俳優やスタッフたちのことである。
 きっかけは知り合いの女優から「東京に行きます」という挨拶メールが来たことだった。
 彼女は地方出身者で実家は福井県だ。大学に入って関西に住み芝居を始めた。今は就職しながら芝居をしているが、遅まきだが東京に行ってみたいと行動することにしたようである。「それはええけど、劇団の公演の時は帰って来るんかいな?」と聞くと「はい、年に何回も帰ってきます」と答える。「どこに泊まるの?」と聞くと、ゲストハウスなどを転々とするつもりだというのである。
 今までも関西出身だが、東京に引っ越して、結局こっちに家が無いから肝心の大阪で芝居が出来なくなった役者をたくさん見て来た。芝居を制作するカンパニーも俳優のホテル代までは賄えないのが常だ。地方の劇団も大阪公演をしたいが、宿泊費まで予算が組めないから諦める。という話もよく聞く。車で来阪し車内泊をして公演する若い子達もいる。
 私はつい「実家の余ってる部屋を使うてもええよ」と彼女に返信した。いや、前々から予算がなくても呼びたい俳優だっているし、実家の余った部屋を客演さんに使ってもらおうかと考えてはいたのだ。
 私には財力なんてないので、劇場を立てたり、稽古場を作ったりするような大きなことは出来ないが、若い演劇人がちょっぴりお金が浮くくらいのお宿なら提供できそうだ。そんなわけで、実家を演劇人ゲストハウスにすることにした。まだ試験的な段階なのでいろいろ考え中だ。
 一泊幾らとか決めてお金を取った方が気兼ねなくていいのか? そんな事したら収入になってしまうのか? 光熱費だけもらうか… どうやって基準を決めるのか。知ってる人だけ泊めるのか、紹介があったら受け入れるべきか? 悩みつつ、メールをくれた彼女に試験的に数週間泊まってもらうことにした。ちょうど秋の公演のためにまた戻って来るらしい。
 母がアパートを経営していたことが役にたった。築60年の昭和な家だが、まだまだ役目が残っているようだ。ちなみに母が経営していた時に住んでいた女の子が「シゲコハウス」と呼んでいたので、名前はそのまま継承することにした。まずは合鍵を作ってこなくては。  

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