ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第129回】
新幹線の回数券というものが無くなった。10枚分の金額で11枚買えるチケットの事で、電車の指定は自分で取るシステムだった。会社の出張や、テレビ局の仕事の移動、劇団の地方公演などにも大活躍だった。「回数券送りますんで、指定はご自分の好きな便でお越し下さい」てな感じで、仕事先から送られて来たものだ。指定しなくても回数券さえ持って走り込めば自由性にだって乗れた。劇団の公演時にはこの回数券を皆に配って、まとめて領収書を貰えば経費として認められた。
それが無くなった。JRが販売をやめたからだ。「へぇ、そうなんだ」と思う人も多いかもしれないが、主要都市に仕事で出掛ける人たちは大変なことになっている。先日も東京のテレビ局から番組出演の依頼があった。それはいいのだが「すみません、ご存じと思いますが新幹線の回数券が廃止になりまして、とりあえずいらっしゃる日を想定して指定券をお送りしますので、良きように変更していただけますか?」という連絡がきた。
邪魔くさかったので「私、ネットで新幹線を予約できるカード持ってるので、それで指定していきます。」と伝えて行ったのだが… なんとその領収書を持って行くと「わかぎさんは個人ですよね。申し訳ありません、それだと源泉税を引かなくてはならないんです」と言うではないか。
「は? 交通費精算の話ですよね。実際にかかってる経費なのになぜですか?」と聞いたが「申し訳ありません。決まりでして」の一点張りだった。おかげで私は実際に引き落とされる交通費から10、21%引かれることにあった。「なんでやねん!」と久しぶりにツッコミを入れてしまったが、向こうも「何ででしょう」とボケるしかないようで、話は平行線に終わった。
こんなことなら手間がかかってもチケットを送ってもらったら良かったのか? いやいやチケットなので普通郵便では送ってくれない。宅配便で送られてくるチケットを受け取りそびれたら、またそれを再配送してもらうのに時間がかかる。それに便の変更のために最寄り駅の窓口まで行かなくてはならない。暇なときならいいが、そんなことしてられなかったらどうしろというのだ?
大手のテレビ局がこの対応である。最近はあっちこっちで「交通費なんですけど…」という会話が飛び交うようになった。いかに回数券文化が便利で浸透していたかが分かる。いったいJRは何をしたいのだろうか? おそらくネットで予約できるカードを広めて現金フリー化したいのだろうと思うが、急すぎる! 庶民の生活のリズムも考えろと言いたい。おかげで移動の多い会社の経理部は細かい交通費の違いをいちいち計算する仕事が増えて、大忙しだ。
企業の窓口に電話をしても「電話が大変込んでおります。当社のホームページからも簡単にお手続き出来ます」というAIの音声が素っ気なく流れて来る時代。アナログでも十分に便利だったものがネット社会の浸透によって、より不便になったような気がするのは私だけなのだろうか。