大阪ん♪ラプソディー【第130回】

大阪ん♪ラプソディー

ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第130回】

「便利な世の中?」


 先日、仕事の合間に昔のタクシーの運転手あるある話になった。ティッシュをくれるのは日本タクシー。飴ちゃんくれるのは個人タクシーと話が弾んで続く。
「近くやったら乗車拒否する運転手おったよね?」
「おった! 私、すみませんワンメーターなんですけどって言ったら『1000円出しや、釣り要らんやろう』って言われたことある。急いでたから出したけど、今やったら考えあれへん」と誰かが答える。
 「それとか、なんかギアチェンジのレバーのヘッドに水中花みたいなん付けてなかった?」  「ああ! あった。あれなんて言うねんやろう?」と今度は調べ始める人がいた。そう言えばタクシーと言わず、友達のお父さんとかにもシフトレバーのギアヘッドに透明の水中花のようなものを付けている人がいた、あれはなんだったのだろうか…と笑っていたら、なんとスマホで調べていた友達が「あった! まだあるやん。しかもアマゾンで2500円で売ってる」「ええええ?」という驚きと共に皆が彼のスマホを覗き込む。
 名称は「シフトノブ、水中花ギアノブ」というらしい。透明のプラスチックのギアノブの中に赤や青の花が咲いていた。懐かしさにみんな大爆笑だった。「残り一点やて、買う?」
「なんでやねん」と、ええ歳のオッサンどもがはしゃいでいた。
その後またひとりが「タクシーのおっちゃんって、子指の爪伸ばしてる人居らんかった?」 「タクシーっていうか、昔のおっちゃんって伸ばしてたよね」と言い出した。ああ、そう言えば、うちの父親も伸ばしていた。耳掻いたりして便利だったからだろう。
「そういえば中国の昔の女の人が薬指と子指にキラキラの爪つけてたやん、西太合の写真で見たことある」「あ、私も見たことあるわ!」という事で、今度は中国の高貴な女性が爪を付けていたのはなぜかという話になった。これも調べるとすぐに分かった。「指甲套(しこうとう)」というもので、清王朝の皇妃にだけ許された装飾品だったようだ。爪が長い方が美しいという思想があったようだ。
 そんなこんなで数十分、ええ歳をしたおっさん、おばはんで盛り上がったわけである。ところがそこに居た20代のスタッフの女の子が「さっきの水中花のとか、どうやって検索したんですか?」と不思議そうに聞いてきた。「え? タクシー、シフトギア、水中花とかで検索したら出て来るやん」と答えたが「無理ですよ、そのボキャブラリーないし」と言う。
 私はこの時に今、何でもかんでも簡単に調べられて凄い世の中が来たものだ! とキャーキャー言ってるのは実は私たち中年以上の世代なのだと思った。昔は何か知らベ物があったら図書館に行き、辞書を引き、それでも分からずに先輩に聞いたものだった。一つの答えを得るのに数時間、数週間、時には何年もかかった。それが今は数秒で分かる。未来が来たんだと感動していたが、若い子たちはその調べるための要素を持っていないのだ。
 「中国の長い爪」ではさすがに指甲套にはたどり着かない。「西太合」「爪の飾り」「女性」くらいは打ち込まないと。しかしそれも知らなければ、たどり着くことはない。文明は発達したが、文化は…? どんなに便利になっても引き出せなければ宝の持ち腐れ、やはり何かを知るのは個人の勉強力なのだ。そう思うと、今の若い子たちは「いいねぇ何でもすぐ分かって」で放ったらかしにされてるのかもしれない。  

▲トップへ

社長ブログ 広報ブログ エッセイ&コラム お客さまインタビュー 特別インタビュー ばね百科事典