ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第132回】
劇団で事件が起きた。先日、芝居の公演があり、その稽古が佳境に入ったころの話である。
いつも誰よりも早く来て稽古場を開け、掃除をし、小道具を作っていた一番若い劇団員のS君が稽古開始時間に来ないのだ。劇団に入って5年目、今まで一度も無いことだった。
あまりにも真面目な性格で、飲んでてもあまりバカな事を言わないし「Sは面白みがないねん」と言われることもしばしばあった。それがこの2年ほどでやっとみんなと打ち解けて、芝居も上手くなってきたところだった。
最初は「疲れて寝てるんちゃう?」「演出の助手もやってたし大変やったんちゃう? 倒れてたりして」「宇宙人にさらわれたんちゃうか?」などとみんなで言っていた。しかし電話しても「携帯の電源が入ってません」というアナウンスが聞こえて来るばかり。遅刻するにしても、電話の一本もして来ないような人間じゃないことは皆が一番知っている。
1時間ほど経って「ともかく家に電話してみよう」という話になったが、本人の携帯番号と実家の住所しか分からない。当然だがバイト先の電話なんて誰も知らない。近所のコンビニでバイトしてると聞いていたので、ネットで検索して実家から一番近いコンビニにダメもとで電話してみると「ああ、S君ならうちのスタッフです」と返答があった。「今日行ってたでしょうか?」と問うと「今日からお休み取ってます。劇団のお稽古だそうで」と答えられた。やっぱり劇団の昼稽古のために準備をしていたのだ。
哀しいかな最近は個人の情報は教えられないということで、バイト先のオーナーさんも心配をしてくれつつ自宅の電話番号は教えてくれなかった。ちなみに電話番号を教えてくれるサービスの104にかけても個人情報ということで教えてもらえなかった。
そんなことをしてるうちに2時間が経った。「よし、家に行ってみよう!」と車で来たメンバーが行ってくれることになった。一番原始的な方法ではあるが、それしかなかった。真面目な子が連絡してこないまま行方不明になると、頭に浮かぶのは事故に巻き込まれたのか?倒れて救急搬送されたのか? という嫌な想像しかない。皆気持ちがざわついて稽古どころではなかった。
結局、S君はなんと電車の中でわいせつ行為をしたということで警察に拘留されていることが分かった。お母さんの携帯番号も分かったので電話したが「警察からまだなにも報せがない。私たちも何が起きたか分からない」ということだった。仕方なくS君の代役を立て、芝居を上演した。長い間芝居をやってるが、劇団員が拘留されて10日以上も音信不通になったのは初めてだ。
これを書いてる今も連絡は付かない。冤罪なのか? それとも本当にわいせつ行為をやったのか?「そんなことする子には見えない」というありきたりな言葉しか思い浮かばないが、こんな時、待つ側は「信じるか」「許すか」のどちらかなんだなと改めて思った。