ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第134回】
大阪府門真市というところで2年に一回、市民ミュージカルが開催される。すでに20年前からやっておられ、作品も今年で10本目らしい。私は5年前の前回の作品と、コロナで時期がずれ込んだが今年も2本の脚本、演出をさせてもらった。
市民ミュージカルというが、実際にはプロの俳優も混ざっている。今回はうちの劇団から4人、知り合いの劇団からも助っ人に一人来てもらった。そして市民の皆さんが台詞を忘れてもフォロー出来るように、各部署に配置されるわけである。
「あの人心配やなぁ、ほら大神さまの役やってるおっちゃん」
「でも本人はやる気満々ですよ」
「やる気満々やから怖いねん!よし妃の役作って、ひとり傍に付けておこう。いつ台詞飛ばしても横の妃が言ってくれたら何とかなるし」
内情はこんな感じである。キャストの中にはずっと出続けているお爺ちゃんも居る。Kさんという優しい方だ。しかし台詞はほぼ覚えられない。それどころかどの袖から舞台に出るのかも覚えていない。「Kさんこっちです!」と我々が囲い込み漁みたいな方式で舞台に出すという日が続いた。
大人に比べると、高校生以下の子供たちは実によくやる。袖も間違わないし、歌も大きな声で歌い、ダンスの振りもしっかり覚えてくれる。ただ、子供なのでジッとしていない。
休憩時間10分間に走り回って、遊び倒す。そう言えば小学生の頃はこんなだったなぁ。10分の休み時間に4回から遠い方の校庭にしかない鉄棒のところまでダッシュで行き、クルクル回ってたもんだと懐かしく見ていた。ところが遊びに夢中になった子に限って、稽古が始まると疲れて、チーンという状態になっている。「おいおい、しっかりしてくれよ」と毎日心の中でツッコミを入れたものだ。
中にはラブレターをくれる子や、なぜかシャープペンシルを貰ったり、今の稽古場で男の子と付き合い始めたなんて報告を受けたりもした。「壁ドンされてん」と嬉しそうに言うが、おそらく妄想だろう。私はなぜか子供に寄って来られるタイプなので、毎日膝の上に誰か座っていた。
いや、もっと面白かったのは以前このミュージカルに出てたYさんがコーラス隊に入っていたのだが、1歳の赤ちゃんを連れてくることだった。稽古場に赤ちゃん…流石は市民ミュージカルだ。稽古の邪魔にならないようにするには抱いてあやすしかない! と思い、毎日のようにT君を肩の上で爆睡させてやった。ふふふ… 私はかつて従姉の子供を毎日世話していたので、子供を寝かせるのは得意中の得意なのだ。
そうやって7歳から80代までの総勢60名のミュージカルが終わった。打ち上げとして閉校式というのがあるのだが、その時の子供たちの嗚咽がもう最高に可愛い。皆と別れたくないから絵に描いたように泣く姿を見ていて、いいなぁ子供時代にこんなに素直に泣ける経験して、とつくづく思った。別れが辛いかぁ… 無いなぁ最近。この夏の思い出である。