大阪ん♪ラプソディー【第149回】

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「ビバいい加減」


 韓国で芝居を上演してきた。4年前に在日コリアンの芝居を書いた頃から、大阪の在日の友達が増えて、今回の公演につながったのだ。
 韓国はいま、文化にめちゃくちゃ投資している。学校教育に「音楽」「演劇」を充実させて小学校の頃から学んでいるという。きっかけは1998年に就任した金大中(キム・デジュン)大統領が「文化に力を入れる」という方針を打ち出したからだ。
 彼は演説の中で「アメリカ映画の「ランボー3」と「ジュラシックパーク」の売り上げが韓国の国家予算を超えている。これは文化が金になるということだ」というようなことを言い、小学校に文化教育を持ち込んで徹底した。その結果、韓国の音楽や演劇が異常に発展し、ご存じのように韓流ドラマの爆発的な人気を呼び、ついには映画でアカデミー賞受賞し、BTSに代表されるK-POPの売り上げでも世界制覇を果たしたのだ。資源のない国でも若者の才能を育てれば外貨獲得できるという政策は大当たりしたということになる。
 そのおかげで、韓国では小劇場にも手厚い助成金が出る。日本で芝居をしている我々にすれば夢のような話だ。テハンノンという町には劇場が150もあり、毎日のように演劇が上演されている。まさしく小さなNYといったところだ。
 そんなわけで仲良くなった在日の俳優が「韓国と日本の演劇界をもっと繋ぎましょう」と言い出して、演劇祭が行われることになり。それに先駆けて韓国公演に招待されて行ったのである。今まで何度か話はあったが生まれて初めての海外公演だった。招待されたのはうちと、ゲキゲキという劇団の2団体。俳優はそれぞれ4〜5人、スタッフは持ち回りというコンパクトな集団が出来上がった。
 ちょうど演劇祭の時期らしく、上演する劇場では韓国の劇団の作品もやるというので、我々の2団体の公演を含めると、一日の間に4本も芝居をするという話だった。ここでも演劇界の勢いが違うなぁと正直驚いたものである。
 ところが渡韓する3日ほど前に、招待してくれるプロヂューサーから「韓国側の上演する作品の女優が全員ボイコットしたので、日本から来る女優さんに代役で出てほしい」という連絡が入ったのだ。「え? 日本語と韓国語でやるってこと?」「なんで日本人? 韓国の女優さん居らんの?」謎は深まるばかりだったが、協力することになった。
 そしていざ渡韓!空港からまっすぐ劇場に向かったら、まず劇場のスタッフがいないという事態。連絡してやっと来たが「今日、日本人が来るとは知らなかった」という始末。このへんで「大陸的やなぁ」という言葉が横行し始めた。ともかく時間はあってないような感じ。約束の時間に劇場に来るのは日本人だけ。急に代役をする羽目になった女優陣はみんなきっちり台詞を覚えて行ったのだが、演出家が「よし、このメンバーなら設定を変えよう!」と言い出したり、さっきまで照明をやっていた役者が1時間後には俳優として舞台に出てたり。来るはずの音響さんが来ないから、やってくれるかと言われたりと、もう何が何だか、ともかく出来ることをやり、芝居の幕を開け、終わったら次の準備のためにまた出来ることをするという怒涛の日々だった。
 正直、荒っぽいが楽しい経験だった。この勢いの中から沢山の才能が育つんだろうなぁという実感も沸いた。そして日本人はやっぱりキッチリしてて、臆病なのだろう。韓国の演劇人のいい加減で、前向きな姿勢を我々も吸収せねば!と思った4日間だった。  

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