ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第156回】
知り合いの新聞記者から電話があった「ちょっと頼まれてくれたら助かるねんけど」と言う。もうこれだけでややこしい案件だと推察できる。面白いものだ、たとえ新聞記者でも頼みにくいことはいいにくいようだ。
依頼の内容はこうだった。
「大阪の企業の取締役をいくつか掛け持ちしてる女性が居て、その人が大坂の歴史を感じさせながら、昔の大大阪時代みたいな活気を取り戻すような芝居を作りたい。と、言っている。ついては脚本家を捜しているのだが、一度話をきいてやってもらえないか?」
ふむふむ… この時点で実に曖昧でややこしそうだ。しかし長年の付き合いである。むげには断れないのでご本人に会うことになった。
当日、その女性Yさんと、制作スタッフのS君、それに背の高いカッコいいイケオジの外人さんがやってきた。Yさんは聞いた通り「今の大阪って元気ないじゃないですか。昔みたいな活気を取り戻すような芝居を作って、みんなを明るくしたいんですよ」とおっしゃる。「仮称・大阪150年物語」という企画書まで持って来ていた。立派な心掛けだ。演劇人としては「ありがとうございます。そう言っていただけると励みになります!」と返事したいところだが、さて彼女の魂胆は何だろうか? と探りを入れてみた。
「おっしゃることは分かりました。それでどんなテーマでやりたいんですか?」
と聞いたら「どんなんがええと思います?」と言い放った。
「どんなんでもええんです。みんなが元気になったら、それと私も実は演劇やってるんですね。だから私も出たいんです。あとフラメンコもやってまして、彼は主人でダンサーなんですけど…」出た! 来た! やりたいことだらけのオバサン。と心の中でツッコミ入れまくったが話は最後まで聞いた。
要するに「大阪を元気にする芝居を作りたい」「大阪の歴史も少し入れつつ、明るく元気な未来を描きたい」「どんなテーマでも良い」「自分も出たい」「フラメンコダンサーでの夫も使いたい」「オーディションをして若い子たちにもたくさん参加してもらいたいと思ってる「お金はない」という条件だった。
見事なくらい自分勝手な依頼だ。しかもすでに大阪の歴史を研究している人や、街歩きのガイドをやっている人を巻き込んでいて、その人たちのワークショップも開くという「大阪を知ってもらう機会にもなったらいいと思いまして」とのこと。「その内容がお芝居とリンクしたらもっといいですよね」と無邪気に笑う彼女には悪気はない。ただやりたいことを目の前に並べて「何とかしてほしい」と言ってるだけだ。
「てんこ盛りですね。それを全部盛り込む芝居なんか私には書けませんよ」と一応釘を刺しておいたがYさんはニコニコ笑っていただけだった。そんな身勝手な泥船に乗るような依頼だったが、脚本を書くだけなら引き受けられる時期だったので、結局乗ってしまった。
ということで今私は「大阪の歴史を感じる、大阪を元気にする、大阪の未来が見える、フラメンコを踊る芝居」を書こうとしている。脚本家としてなかなかの高さのハードルに挑んでいるわけである。大阪らしさってなんやろう???