大阪ん♪ラプソディー【第158回】

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「じゃりン子チエ」


 大坂の下町のホルモン焼屋の娘、チエちゃんが奮闘するはるき辰巳の漫画をご存じだろうか? 「じゃりン子チエ」というタイトルで、1978年から双葉社の漫画アクションで連載され、1981年からはアニメ化もしている。なんと監督は「火垂るの墓」「平成狸合戦ほんほこ」などのアニメ映画の巨匠、高畑勲だった。
 何度か舞台化もされたようだがそんな有名なアニメがこの秋に再度舞台化されることになった。大阪らしい、大阪弁満載の芝居である。絶対楽しいに違いない! いや、楽しくなくては困る! というのも、その脚本を書くのは私なのだ。
 松竹のプロデューサーさんからお話を頂いたのは去年の事で「わかぎさん、『じゃりン子チエ』好きですか?」から始まった。好きか? と聞かれるちょっと困った。大阪人にとって「お好み焼き好きですか?」とか「うどんすきですか?」と聞かれてるようなものだったからだ。それくらい「じゃりン子チエ」は大阪人にとってのソウルメイトになっているのだろうか。
 50歳オーバーの東京のおじさんたちに「寅さん好きですか?」と聞いたら「好きもなにも、寅さんは寅さんだからなぁ」と答えるだろう。私にとってもチエちゃんはそんな存在だということが今回よく分かった。「今更、なに聞いてるん?」というのが本音である。結局、松竹のプロデューサ―にも「チエちゃんはチエちゃんやし、好きとかそんなんちゃうねんなぁ」と答えてしまった。 ということで、全二幕の芝居の台本を引き受けた。担当プロデューサ―と演出家のB氏と3人で「ここが好き」だとか「あのエピソードいれたい」という戯れのない会話から始まって、舞台化するにあたり具体的にどうするべきか、配役は? どこまでオリジナル化していいものか?という詳細な打ち合わせを重ねつつ、5稿目まで進み、ついに先日完本した。
我が家にある「じゃりン子チエ」の単行本はどの台詞が使えるかという目安の付箋だらけ、Amazonプライムで何度もアニメを見たりして、チエちゃんの事やったら何でも聞いてや! というくらいじゃりン子チエ通になってしまった。
今回、舞台化するにあたり昭和すぎる表現は避けることになった。「アホ、ボケ、カス」は言ってもいいとして「ちび」「ブス」などの言葉はルッキズムの観点から使わないことに。またチエちゃんが父親のテツが働かないせいでホルモン焼屋を切り盛りしているという大前提も「子供を働かせてていいのか?」という議論の的になり、会議が繰り返された。
しかしチエちゃんは子供ながらに店を切り盛りしつつ、逞しく生きている少女なので、そこは「昭和の漫画が原作なので」と逃げ道を作っておくことになった。テツが賭け事が好きでヤクザと花札をやったりする設定もぼかした。賭け事をしてても競馬かパチンコという公的なものしかしていない設定だ。
 何よりもいま、舞台でタブーなのはタバコを吸うシーンである。これはうちの芝居でもほぼ入れないようにしている。舞台では「この芝居は煙草を吸うシーンがあります」と断れば、吸えないことはないのだが、お客さんが「煙草を吸うシーンが出て来て見る気がなくなった」と言い出したり、煙が客席に行くわけでもないのだが咳き込んだりするからだ。タバコを吸うという行為が現実に引き戻してしまうのなら作らない方がいいという判断である。まして今回はチエちゃんの役は子役さんが演じるので、タバコなどもってのほかだ。
 漫画を芝居化するのは難しいか? と聞かれることがあるが、実は私が芝居を始めたきっかけは「漫画研究会」の先輩が萩尾望都先生の「ポーの一族」という漫画を舞台化するというので手伝いに行ったからだった。なので難しいもなにも「今更なに聞いてるん?」という感じである。漫画は絵という見本があるが、それをどうイメージを崩さずに現実化するかなので、クリエイティブで楽しい仕事だ。
 舞台「じゃりン子チエ」は大阪の松竹座で11月15日から25日まで上演される。お時間許せば、ぜひ足をお運びくださいませ! お待ちしてます。  

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