ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第47回】
脚本を書いたり、演出をすることを生業としているが、正直世の中の人にはほとんど理解できないようだ。
先日、携帯電話の機種変更のためにドコモショップに行った。前のスマホがタッチしても何も反応しなかったり、何も触ってないのに変な文章が勝手に打ち込まれたりと、怪奇現象か?と言いたくなるような状態だったので、休みの日に駆け込んだのだった。
ショップのお姉さんも、その携帯を触りながら「よく使ってましたね。イライラしませんでしたか?」と同情してくれた。「したから来たんやん」とこっちも答えるので、自然と話が弾んだ。
機械が複雑になっているし、個人情報が大切なのはわかるが、最近の携帯ショップでの機種変更は長くかかりすぎるのが欠点だ。下手をしたら半日仕事である。そんなストレスを相手のお姉さんと仲良く喋ることで、少し軽減できたのは良かったのだが…
「ここにお勤め先を書いてください」と言われ、うちの事務所「玉造小劇店」と書いた時である。「小劇店ですか…劇って、劇ですか?」と聞かれた。
「はい、舞台の製作をしている事務所なんで」と返事したら、いきなり相手の表情が変わった。
「舞台って、どんな仕事してるんですか?」どうやら興味があるようだ。「うちは劇団ですが、そのほかにも依頼された脚本書いたり、演出したりしてます。」とこっちも正直に答えた。
すると「演出って、この間亡くなった蜷川なんとかさんみたいな仕事ってことですか?」と言うではないか。「はぁ。あんな偉大な人と一緒にされると、向こうが怒りはると思いますけど、まぁそうです」と言うと、もうすっごく楽しそうに「じゃあ、芸能人なんですか?」とキラキラした目で迫られた。
困る…演出家は芸能人ではない。いや芸能人と言えば芸能人だが、けっして彼女の思っているような芸能人ではない。スポーツの世界で言うと監督みたいなものだが、それも大雑把な例えだし…と頭の中でグルグルそんな思いが回ったが、説明するわけにもいかないので「はい」とだけ答えた。
お姉さんは「へぇ…そうなんですね」と朝一で店に駆け込んだスッピンの私の顔をマジマジと眺めていた。ああ、せめて化粧して、綺麗な服でも着てたら良かったんかなぁ。とも思ったが、後の祭りである。
聞かれたことはないが、警官に職質なんてされたら「演出家?」と怪訝な顔をされるんだろうなぁと、ふとその時思った。職業選択は自由なはずだが、私の選んだ仕事は実に説明が不自由だ。