大阪ん♪ラプソディー【第48回】

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「進化する若者」


 先日、36人が出演する芝居に出ていた。その一座における私の役回りは脚本、お婆ちゃん役での出演、殺陣指導に着物の所作指導、そして若い役者達の教育係だった。
 今回はオーディションを受けて出演が決まった若者10人を6週間で演劇の現場に連れて行かなくてはならなかった。履歴書には経歴が書かれていて、みんなそれらしいことを書いてあったので少し安心していたのだが、なかなか手ごわかった。
 中でも最年少のヨンヨン君20歳は強敵だった。まず稽古期間の途中で来なくなり、理由を聞いたら「バイトとか、他のオーディションに行ってました」と悪びれもせず言い放った。「他のオーディション? まだこっちの芝居終わってないのに? 第一お前何も出来へんやん」稽古場中の先輩諸氏が心の中でツッコミを入れるのが見えるようだった。
 ヨンヨン君は本当に何も知らなかった。演劇的なことだけではなく、人としてである。以下彼の名言を幾つかご紹介しよう→「サンドイッチの具って中に入ってるおかずのどこの部分なんですか?」「トイレットペーパーって無くなったら自動で変わるんでしょ」「ええ? 着物って紐で結ぶんですか?ベルトとかじゃなくて」とまぁこんな感じだ。
 それでもヨンヨン君は時代劇のシーンの切られ役、太平洋戦争中の工員、特高の刑事と端役ばかりだが3役をやった。ちょっとした役なのだが、それはそれは下手くそなので、立ち姿から歩き方、座り方に、お辞儀の仕方に帽子の脱ぎ方、時代劇の切られ役なので切られたときのリアクション。他には通路の真ん中に立たないとか、靴を揃える習慣や、衣裳を掛けるハンガーの向きが揃ってないとスタッフが困るなどのコマゴマトシタことを皆で怒鳴りまくって教え込んだ。
 もちろん、ヨンヨン君だけではなく他の子たちも似たり寄ったりなので、怒鳴り過ぎて声が枯れた。私だけではなく出演していた幹部の10人くらいが出演者兼コーチの役割を担っていたので、次々と声を枯らしてハスキーな集団と化していた。
 そんな6週間後の本番の前に私が舞台の袖で他の役者と話をしていたら、ヨンヨン君が通りかかって、はっと気がついた顔つきになり、さっと我々の後に回ってから舞台の方に歩いて行ったのだ。
 その瞬間私たちは「ヨンヨンが先輩の前を横切らないで、自ら後ろを通って行った」と感動したものである。6週間叱り続けた甲斐があったというか、ともかく嬉しかった。
 頑張れ若人!頼むでほんまに。  

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