大阪ん♪ラプソディー【第53回】

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「ありのまま」


 うちの劇団にCちゃんという女の子が入ってきた。なんでも高校生まではシンクロの選手だったとかで、ジュニアオリンピックの代表に選ばれる寸前まで行ったらしい。
 「凄いやん」と言ってあげたいが、シンクロ界のことを知らないので、どんなレベルの選手だったかが今一つ分からないが…。
 スポーツ選手だったせいか、妙に礼儀正しいのだが、ちょっと子供みたいなところがある。22歳なので可愛いと言ってしまえば、それまでだが、バカがつくほど純粋なのだ。
 今回、彼女は戦前の満州に居た女性の役なのだが「とりあえず参考までに『ラストエンペラー』とか、見てみたらいいんじゃないか」と先輩に勧められた。
 すると次の日、「あの、観たんですけどチンプンカンプンで、これは何ですか?」と携帯で撮った写真を見せて質問をしてきた。ご丁寧にDVDの画面を携帯で写して来たらしい。
 最初は丁寧に説明していたが、次々に写真を出してくるので「何枚あるんや?」と聞くと「150枚くらいです。」と言い放った。真面目なのは良いが、知らなさすぎる!演出してるとそんなことに付き合う時間がないので、歴史好きの役者にバトンタッチしてもらった。
 また別の日、衣裳を運ぶ手伝いに来てくれて、車の助手席に乗っていたときのことだ。私はバックで車庫入れをしていた。家の並びが学校なので、車庫入れにはいつもとても気を使っている。
 ちょうど車体が半分くらい入った時のことだった「犬!」と横でCちゃんが叫んだ。その瞬間ブレーキを踏んだのだが、少し先の交差点を犬を乗せた車が走っていくのが見えた。
 Cちゃんは車に乗っている犬が珍しくて叫んだらしい。私は車庫入れをしている時などに運転手にむかって「犬」と一言叫ぶことがどれほど危険かコンコンと説教した。
 「犬を轢いたのかと勘違いしたらどうするんや? びっくりさせるな」と真剣に叱ると、神妙に「はい、すみませんでした」と大人しくなった。
 そして、その1分後に我が家に入るなり、うちの猫を見て「猫!」と叫んだ。見た物をそのまま口にするのは5歳くらいまでの子供だけかと思ったが、そうでもないらしい。
 稽古場で飲み会があった時もなかなか面白かった。調理場で何か作ろうとしているので「お、Cちゃん。調理できるんかいな、何作ってくれるん?」とオッサン連中が嬉しそうに聞くと、さっと携帯を出して「えっと…風呂吹き大根です」と言う。みんなが期待して見ていると「まずですね…鰹節が200グラム要ります。それをお茶のパックに入れて出汁をとって…」と続けた。
 「おいおい、稽古場の飲み会で出汁までとって本格的に作らんでもええねん」と誰かが突っ込むと「出汁はなしで作るんですか?」と答えた。
 けっきょく彼女はクックパッドの料理例を読んでいただけで、料理はしたことがないと判明し、その日は、とりあえず「ほんだし」という商品ががあることを教えるに留まった。
 Cちゃんは純粋な子供だ。なかなか手ごわい奴が入って来たものだ。  

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