大阪ん♪ラプソディー【第55回】

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「開けたらあかーん!」


 うちの劇団には若者が3人居る。24歳R君。23歳Uちゃん。22歳Tちゃんである。
3人とも今どきの若者らしく、優しすぎてアホというタイプだ。
 例えばTちゃんは人の荷物を持ってあげて、自分のバックを忘れて来るという傾向がある。Uちゃんは先輩に何か頼まれたら断れない人なのだが3つ以上になると順番に忘れて行く。
Tちゃんはその域にも到達していない子供だ。
 そんな3人だが、劇団での最初の仕事はケイタリングといって、芝居の本番中に頂いたお菓子を出して並べたり、お湯やコーヒーを沸かしたり、冷蔵庫にビールを入れて置いたりする仕事である。
 これが簡単なようでなかなか難しい。役者の誰かが差し入れに貰ったお菓子を「みんなで食べてください」とケイタリング場に持ってきてくれるのだが、それを何でもかんでも開けてしまうと一杯になって置き場が無くなったり、生もの優先だったり、千穐楽近かったりすると開封せずに次の公演場所に持って行くなどの判断も必要になって来る。
 ここだけの話、ケイタリングのお菓子の取り方で性格や素行が分かるという深い世界でもある。人間、食い物の前では化けの皮が剥がれやすいというのは嘘ではない。そんな人間模様渦巻くケイタリング場で揉まれて演劇人は一人前になるのである。
 しかし今の若者は素直で優しい。お菓子を貰ったら何も考えずに全部開封する。「今日中に食べられへんやろ、適度に出せよ」と言われるとTちゃんが「適度ってなんですか? 適当の略ですか?」などと真面目に聞いてきた。
 Uちゃんはビールを冷やしておけと言われたら本番中にバリバリと大きな音を立てて箱を開けたりする。「自分も役者で出てるんだから、本番中は芝居に集中しろ」と言われると、目の前のゴミも拾わずに集中していた。
 ごぉぉぉ! あんたらには応用力ってもんがないんかぁ? と毎日怒るのだが、それでも事件は毎日起きる。
 3人の中ではR君が最近は少しお兄ちゃんになってきて、しっかりしてきたと思っていたのだが…日持ちのしそうなお菓子を、劇団員が客演する次の稽古に持って行かせようと、わざわざ包装紙を買ってきて梱包し直したものを「これ持ってて」と渡したら、一瞬の間に開封されていた。
 「なんで開けるん? 持ってて言うただけやん」と聞いたが、開いてるお菓子がなかったからという答えだった。そう、そうやな。確かにないけど… かと言って開ける前に聞きに来いと言ったらいちいち「これ開けていいですか?」問題が発生するだろう。
 状況判断して、適度に何かするという仕事は本当に難しい。お願い3人とも考えて開けて〜!  

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