ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第63回】
事の始めはうちの母、95歳が加齢による健忘が始まったことだった。2年位前からお金に対する執着がまったくなくなって来て、ケーブルテレビが急に見られなくなったり、電話が料金滞納で止まるなどの事件が次々と起きた。
原因は母が引き落とし用に使っていた方の銀行にお金を移す作業をしなくなっていたことだった。
家も荒れていた。ゴミ屋敷とまでは言わないが、前から部屋が片づけられない現象はあった。物を捨てないからだ。「捨てや」と言うと「まだ使えるやん」と言って、お菓子の箱なんかを全部置いておく。そのうちその上にまた新しいものを置いて、下にある物は二度と見えなくなるというパターンだ。
昔は私がそっと捨てたら拾いに行っていたのだが、最近はそのパワーが落ちてきたので、折を見て少しづつ捨てている。
母には数人のお婆ちゃん友達が居て、その人たちと玄関先に座り込んで喋るのも日課になっていた。どこかに出かけるのが邪魔臭くなってきたのだろう。
しかし玄関のわずか20センチくらいの植え込みに90代のお婆ちゃんが2人も3人も座り込んでいたら具合でも悪いのかと誰だって思う。よく「大丈夫ですか?」と声を掛けられていた。
そこで大工さんに実家の前にあったものを一掃してもらい、3人掛けのベンチを置いてもらった。幸い母の家はテントが少し張ってあるので雨よけ対策はバッチリだ。ついでにそのテントも張り替えた。
偶然だがテントが青っぽい配色のストライプ、椅子がピンクなので、なんだかハイカラな待合みたいになった。
母はどうやら気に入ったみたいで、毎日そこで友達と話し込んでいる。うちの旦那は口が悪いので「あそこ、ババカフェやな」とあだ名を付けた。
そのうち近所の人から「あのソファええね」とか「あれ、うちでもしようかな」と言われるようになった。
私には地域貢献とか、町内のための協力とかにはまったく縁がないと思っていたが、家の前にソファを置いて、年寄りが座るだけで、どうやらそうしているみたいだ。
私と母は決して仲のいい親子ではなかった。だから今まで彼女がしてきたことに興味もなかったのだが、こうやって少しづつ世話をするようになって、新しい関係が出来つつある。
大人と子供の逆転した関係だ。