ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第67回】
2月1日から10日まで、大阪の松竹座で「泣いたらアカンで通天閣」という芝居が上演される。
原作は阪井希久子の小説で、新世界にある不味くて有名なラーメン屋の親父が赤井英和、しっかり者の娘が三倉茉奈という配役だ。
この小説を脚本に起こし、演出をした。大阪弁の台本だったからか、現代劇だったからか、最速で書き上げた。いや、本当は2週間取ってあったのだが、制作から1週間でともかく1校目をくださいという指令が下り、大急ぎで形にしたらあっという間に書けてしまったのだ。
稽古が始まると、ほぼ全員が関西人という稀な座組だった。大抵チケットが売れるという理由で東京の役者さんが出て、関西弁を仕込むのに苦労するのだが、今回はそんなことはまったくなかった。
「そこ、あれやってほしいねん」
「あ、分かりました。あれですね」
「うん、わかる?」
「分かりますよ」
「ごちゃごちゃしてるやろ」
「了解です」
ダメ出しもこんな感じだ。多くの説明が省けるので、あっという間に進行していった。
残念ながら東京で稽古するとこうはいかない。
「台本34ページの4行目の台詞から中央に寄って来てほしい」などと指示して、キチンと伝えないと、ダメな演出家ということになってしまう。邪魔くさいなぁと内心では思っていても、お仕事お仕事と自分に言い聞かせるわけである。
そんなストレスが全くない現場は稀なので、実に楽しかった。
しかし、ひとつ誤算だったのは台本は通常書いた枚数でだいたいの時間が計れるのだが、今回はページ数は足りているのだが、なぜか時間が早めに終わるのだ。
「おかしいですね、1幕が70分。2幕が75分で仕上がるはずなんですが、65分と、67分なんですよ。まだ音楽は入っていませんが」と、舞台監督も頭をひねっていた。
うーん。そんなこと言われても台詞もカットしてないし、どういう事だろう? とみんなで言っていたら、ある日、東京出身の制作さんが稽古を見に来た。
「大阪の人って喋るの早いねぇ」と言い放った。それを聞いたとたん「まてよ! そういう事や。みんな早く喋りすぎなんや」と猛省した。
出演者全員が大阪人だと誰も気がつかないマシンガントークの稽古場。
全員が早口でお喋りだとこうなるのかと、改めて思った現場である。
「みんな、もうちょっとゆっくり喋って」というダメ出しをしたのは生まれて初めてだった。