大阪ん♪ラプソディー【第71回】

大阪ん♪ラプソディー

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「楽しい話」


 日本の演劇の中心はなんといっても東京である。だから演出の仕事をもらうと何ヶ月か東京で暮らすということがよくある。脚本も書いているので、移動中に出会う人を観察するのも楽しみのひとつだ。

 今日もモーニングを食べる為に入った新大阪の喫茶店で面白い初老のカップルに会った。
 男は気難しそうな感じの人で、ナイフとフォークを使ってハムエッグを食べていた。食べ終わるとそれをきれいに真ん中に揃えて置いて「こうやって終わるのがフランス式」と呟いた。
 そして、ナイフとフォークを斜めにズラして「こっちがアメリカ式」と言うと女の顔を見た。
 彼女は「へぇ、そうなの」と興味がある風ではなかったが、にこやかに答えた。すると彼は眉根を寄せて「知らんの?」と答えるではないか。女は申し訳なさそうに「そんなん知らんわ、さすがやねぇ」と優しく言う。
 二人の関係はこうやって成り立っているのだろう。細かい知識を披露して、女に褒めてもらう事で彼は喜びを得ているのだろか。
 彼が席を立ってトイレに行くと、女の方はため息をついてコーヒースプーンに塩を少し入れパクッと口にした。
 「え? 塩舐めた。砂糖やなくて塩?」と驚いて見ていたのだが、疲れているどころではなく、生命維持に。
 危機感を覚えているのかもしれない。

 先日の夕方は駅中のバーで、いかにも不倫カップルという40代の二人が、それぞれの家庭の話をしながら仲良く飲んでいた。
 色白で薄紫色のカーディガンを羽織った女はいかにも「私、わりと美人でしょ?」という主張のある“女が嫌う女”というタイプだった。
 男は会話の所々に「Mちゃんとやったら」という言葉を挟む。何をするのでも君とだったら嬉しいのにという意味だ。
 知らん顔してハイボールを飲みながら見ていると、女が突然、指輪を出して男の指にはめた。「こんなのあげたら迷惑?似合うと思ってん」と言い放つ。
 「迷惑に決まってるやん?」と内心思いながら見ていると、彼がニコニコして「うれしいなぁ。こんなん欲しかってん。これで明日から勇気百倍や」と答えた。
 家に帰ったら彼は何と言い訳するのだろうか?いかにもサラリーマンというスーツ姿だったが、あんなでかい銀のリングを付けていたら変な目でみられるに違いない。

 人の行動はそれぞれで興味深い。それをおかずに今日も私は西へ東へ向かう。ある意味特な商売だ。  

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