大阪ん♪ラプソディー【第72回】

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「続・若者よ」


 劇団に研究生が入って来た。うちの劇団員になるには一年間、研究生生活をしなくてはならない。稽古にすべて出席。当然だが遅刻、欠席は許されない。稽古場やトイレの掃除はもちろんのこと、荷物運びから、小道具や衣装の製作の下っ端として加わる。DMの封入や、チラシの挟み込みという地味な仕事もあれば、小さい役でも芝居に出ることになったら俳優としても機能しなくてはならない。
 劇団と言えば飲み会だが、その時は座っている暇はない。お酌に、料理運び、集計のお金集め。座って飲む時間などは全くない。
 時代錯誤な感じだが、要するに芝居を覚えたかったら演劇人の生活を覚えろという丁稚システムである。しかも、そこまでやってもギャラは出ない。劇団員になったら公演時には出るが、研究生は地方公演に行くときの交通費と宿泊代、あとは劇場でのお弁当が出るくらいだ。
 他所の人達から見れば「どうやって食べてるの?」と聞きたくなるところだろうが、ま、そこはご想像にお任せする。芝居が好きだからこその研究生生活である。
 しかし、そんな清貧の中でも芝居をするという健気なイメージはもうない。研究生の大半がお坊ちゃん、お嬢ちゃんだからだ。20代半ばでも親から小遣いをもらっていたり、家賃を出してもらっている。
 先輩がおごってやると言っても「あ、今日は予定がありますんで」と平気で断る。肉を持って帰れと言われて「あ、うちアホほどありますんで結構です」と答えた子もいる。
 慣れない仕事が多いのだろうが、ともかくやることが遅いので先輩が見かねて手伝うと、お礼も言わずに「下っ端も何かと大変なんですよねー」とか言い出す。
 東京公演からの帰り、研究生はバス代しか出ないというので「じゃあ皆でバスで帰ろう!」と幹部一同が深夜バスのチケットを取ったら「僕たちはお金足して新幹線で帰ります」と言われて、チーンとなったこともある。
 ダメ出しをしたら泣かれて、トイレに立て籠もられ、みんながトイレに行けなかったり、大きな荷物を取りに行かせたのでタクシーを使っていいと言われたら、往復とも乗った奴も居た。
 若者はみんな金の卵だ。素晴らしい未来がある。ただし無事に生まれればという話である。  

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