ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第83回】
この間、蕎麦屋で昼ご飯を食べていた時のことだ。私が注文した、かき揚げ冷やし蕎麦が運ばれてきたとたん、ひとつ空席を挟んで隣に座っていたオッサンがいきなり店員に叫んだ。
「おい! お前、俺10分以上待ってるねんぞ。後から来た女の方が先に来とるやないか、どういうつもりや! アホンダラ!」
これを聞いてビビった店員は「すみません。確認しますんで」と厨房の方へ走って行ったが、オッサンの機嫌はもう治まらなかった。伝票の付いたプラスチックのボードを乱暴に叩きつけると椅子を蹴って出て行ってしまった。レジの女の子に向かって「クソが!」と叫んで。
久しぶりに聞いた。まだ使う人居るんや〜と妙な関心をしながら、そのオッサンの行動をチェックしたわけだが、何が彼をあそこまで激怒させるのだろうか?
一見すると冴えないサラリーマンという感じの、決して強面ではない風貌だった。よっぽど鬱憤がたまっていたのだろうか?
よく飲食店に「ご注文によってお出しする順番が異なる場合があります」という張り紙を見ることがある。ああいう客が来るから対策のために書いてあるのだろうが、あまりにもドンピシャな人だった。
彼はあの後、どうしたのだろう? 近くの立ち食いソバにでも飛び込んでサッと食べて怒りを鎮めたのか? いっそ寿司屋に入って散財して気を紛らわしたか? いやいや、コンビニでおにぎり買ってバカ食いしたかもしれない。いずれにしても早く食べられるものをエア乱打に違いない! なんて考えると、気になって自分の食べた蕎麦の味を忘れてしまった。
しかし「アホンダラ」に「クソ」は破壊力のある言葉だ。彼が怒って出て行ってしまった後の店内の静まり返った雰囲気はまるでお通夜の会場のようだった。ひたすら蕎麦をすする音だけが響き、誰も他人の顔を見ようとしない。
自分が悪いわけでもないのに、せっかくの昼どきを台無しにされた感じが漂っていて、実に残念な雰囲気だった。
あれからずっと、あの破壊力に匹敵する大阪弁を頭の中で検索しているが思い当たらない。
東京弁だったら「このバカタレが」とかになるのだろうか? 「大バカ者」「ばか野郎」…どれもイマイチだ。ある意味、あれを聞けたのは貴重な経験だったに違いない。