ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第87回】
「あの人は人種が違う」と言う表現がある。要するに自分とは考え方が違うので、合わないという意味だ。ちょっと皮肉でもある。
私は遅刻というものが大嫌いだ。たぶん育った環境のせいもあるのだと思う。うちの父は客船の船乗りだったので、出港時間に間に合わなかったら仕事にならないという考えが染み付いていたのだろう。かなりいい加減な人だったが遅刻だけは嫌った。
なので、子供のころから家中の時計が適当に進められていた。父曰く「ひとつだけ10分とか決めて進めたら、あ、本当はまだ10分あるなと思うから、全部適応に進めとくんや」という理屈である。
この教えは今も引き継ぎ、我が家はすべての時計が適当に進んでいる。車の時計さえ何分か進めてあるくらいだ。
だから当たり前に遅刻してくる人間の神経がどうも理解できない。うちのスタッフに「1時に行きます」などと言って来た試しのないミヨシという女性がいる。長い付き合いなので名前を出してしまうが、ミヨシは本当に時間を守らない。
「明日、6時の稽古に行きます」と言ったら絶対に6時過ぎに来る。おかげで必ず稽古が少し遅れる。私はそれを「ミヨシタイム」と言っている。
ちなみにミヨシの趣味は「寝菓子」をしながら漫画を読むことだ。寝菓子… ミヨシの作った言葉だが、要するに寝たばこと同じで、布団の中でスナック菓子を食べることである。
「え? 寝ながらお菓子食べるの?」と最初に聞いたときは衝撃で3回くらい聞き返した。「そうです。スナック菓子食べながら、好きなマンガ読んでいつの間にか寝るのが至福の時間です」と言い放つ、そんなミヨシは50歳の巨漢の女だ。
おまけに超甘党なのである。コーヒーに砂糖を10杯くらい入れる。もちろんミルクもたっぷりだ。ブラックしか飲まない私には地獄のように甘い。一度一口飲ませてもらったが、信じられない味だった。
そのくせ「健康診断に入った方がいいですよ」などと勧めてくる。お前にだけは言われたくないわ! というやつである。
「あかん、こいつ人種が違う」と、私はいつも彼女を見ながら思ってしまう。大人なので気の合う人とだけ仕事が出来るわけではない。とは思っているが、限界線を感じることも少なくない。せめて遅刻と寝菓子を止めてくれたらいいのだが…。