ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 大阪ん♪ラプソディー > 大阪ん♪ラプソディー【第92回】
去年母が亡くなったので、色々な手続きをしている。いままでも自分の家を建てたり、会社を興したりして社会的に十分大人のつもりだったが、まだまだ違ったようだ。遺産相続だの、登記だの自分では出来ないことだらけで(というのも、我が家はちょっぴりややこしいのだが)友人でもある弁護士に依頼して助けてもらっている。
そして、今年61歳になったのだが「年金事務所」というところから緑色の大きい封書が届き、厚生年金分の年金は受け取れますよ。というお知らせが来た。
演劇だけでは食えなかった若い頃は、当然だが会社勤めをしていたので、OL時代の厚生年金と、フリーになってからの国民年金が半々くらいの割合である。その厚生年金がなんと女性は61歳から受け取れるというのだ!
「え? 年金って貰えるのが遅くなるとか言うてるけど、ちゃうの?」と思ったが、友達に聞くと我々の世代は女性は61歳から支給されるらしい。私の場合は勤めていた期間が長くないので、そんなに貰えるわけではないが… ラッキーということで手続きに行った。
なんせ年金である。昨今、貰うのが罪みたいな気持ちになる、あの年金だ。相談に行くのも申し訳ないという感じだったが、行ってみたら担当してくれたおっちゃんが大きい声で「ああ、勿体ないなぁ。あんたどこかで8ケ月だけ雇ってもらい」と言い放った。
「は? この歳でですか? それ無理ちゃいます。そやから年金もらうねんし」と答えたが、おっちゃんは強気だった。
「なんでぇな。まだ61になったばっかりやねんから、行ける行ける。あんたの場合、就職が20年にあと8ケ月だけ足りへんねん。惜しいなぁ、20年あったら65歳からもうちょっと貰えるねんで」と説明してくれた。
おっちゃんは本気で進めてくれたが「うーん私、脚本書いたり、演出家やってるんです。一応、仕事もちゃんともらえてるんで、そない就職にこだわってませんねんけど」とは言えず、私はニコニコしながら「はい、考えてみます」と答えて、書類を書き終え年金事務所を後にした。
どちらかというと19年4ケ月も就職しとったんか… と自分でその長さにビックリしたくらいだ。要するにその時間、演劇では食えなかったということであり、業界側から見れば、自慢できる長さではないということになるではないか。
しかし年金である! 昔、父が「年金が入ったら〇〇買うたる」と言っていた、あの年金だ。なんだか、自分が社会的にも遂に大人になったのだという感じがしてきた。遅いかな… まぁともかく年金なのだ。
あれから「あと8ケ月か… 誰か雇ってくれるかなぁ?」とぼんやり考えてみたが、今さら演劇人がどんな就職が出来るというのだろうか?そう思うとつくづくヤクザな世界で仕事をしているものだ。
私の自慢は、何も保証のない、誰も賄ってくれない仕事を人生の糧としてやってきたわりに、年金支払いを完遂し、今年から貰える数少ない演劇人であることいういらいだろうか。