ホームへ戻る > エッセイ&コラム > オリンピックロード…リオへ向けて > 【第1回】
初めまして、今回からエッセイを連載させてもらうことになりました。安田真之助と申します。私はセーリング競技のナショナルチーム(日本代表)として2016年、夏に開催されるリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得するために活動しています。
「セーリングってなに?」こう思う人も多いと思いますが、ヨット競技のことです。またヨットと聞いてオールを使って漕ぐものを想像する人もいるかもしれませんが違います、それはボート競技。
ヨットは三角の帆に風を受けて海上を走るスポーツです。
実は私と赤松社長もヨットという共通の趣味で知り合いました。
ここではリオデジャネイロ五輪で金メダル獲得に向けた活動の中で経験したこと、感じたことを中心に書いていきたいと思います。
今年9月にスペイン・サンタンデールで開催された世界選手権で147艇中私の成績は107位だった。レースが終了してから今後どのように取り組めばもっと上のレベルにいけるのか、そんなことばかりを考えていた。
私は今年、全日本選手権では優勝していたが世界のトップとの差があることは世界選手権の結果から明らかだった。このままではダメだ、もっとレベルの高い選手の技術を盗むことが必要だと思った。
そして全く面識のないクロアチアのコーチを訪ねることにした。私はクロアチア人にこう言った「Let me sailing together!」(あまり英語が得意でないのでわりと片言)するとクロアチア人のコーチはとりあえず帰国したらメールをしてくれと言って名刺をくれた。帰国後、クロアチア人のコーチにメールを送り、11月に1ヶ月クロアチアに練習に行きたい思いを伝えた。
そしてクロアチア人のコーチ、アーロンから連絡がきて11月にクロアチアで武者修行することが現実となった。多少の不安はあったが単独でクロアチアに行くことにした。
現地に行ってみるとそこにはクロアチア、オーストリア、モンテネグロの選手がおり、そこに混ざって練習することになった。
アーロンは「明日10時に海に出て練習しよう」そう言って帰っていった。
翌日、私はヨットハーバーに9:30到着し、10時には海に出られる準備をしていたがアーロンの姿はない。10:10分頃にサンドウィッチを持ったアーロンと他の選手たちが現れ、海に出たのは10:30分頃だった。
そう、クロアチア人は結構時間にルーズだった。翌日から予定より大体30分は遅れるものだと想定して行動することにした。
練習後は毎日ミーティングを行った。何か特別な技術指導を期待していたがアーロンの口からそんなことは全くなかった。
しかし、その日の練習で、うまくいできなかった部分を指摘して「どうして失敗した?」としつこく聞いてくる。
アーロンは練習中海上でビデオカメラを撮ってくれている。私は失敗した部分をもう一度みてなぜ失敗したのか考える毎日だった。
日々のミーティングの中でこのような時間がとても多い。
日本では指導者に対して何か特別な技術指導を期待していることが多いように感じるがそれは間違いなのではないだろうか?
元々コーチという言葉の語源は馬の手綱からきており、選手を目的の場所(目標)まで確実に安全に送り届けるという意味である。
つまり、選手自らに考えさせる指導が本当の意味でコーチングだと思う。
スポーツでも仕事でも何でも共通していると思うが、人を育てる時に最も大切なことはその人を深く考えさせることなのだと改めて感じた。
クロアチア人のアーロンコーチは時間にルーズで適当な部分もあったが、多くのことを学ばせてくれた。また行きたいと思う。