オリンピックロード…リオへ向けて【第4回】

オリンピックロード…リオへ向けて

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「フィーリング」


 先日、いつものようにヨットの練習をするため、マリーナへ向かった。
マリーナに着くとコーチが近づいてきて「今日はとなりのヨットクラブの連中とレースをする。ヨーロッパチャンピオンやオリンピックで入賞した選手も参加する! 頑張ってこい!」と言うと、去って行った。
この日、なんの予告もなく世界のトップ選手と直接対決することが実現した。

 私はクロアチア・スプリットという街を拠点に練習をしている。イタリアの対岸でアドリア海に面した港街だ。小さなマリーナ内に2つのヨットクラブが存在する。名前は「JKラブド」と「JKモナー」だ。(JKとはクロアチア語でヨットクラブの頭文字を表している)
私はJKラブドに所属している。両クラブともに15名ほどの選手が所属しており、世界でも活躍する有名な選手がほとんどだ。クロアチアの選手は所属先のヨットクラブが活動費を支給して、毎日ヨット漬けの日々を送っている。
普段、両クラブの選手が一緒に練習することはほとんどない。しかし、大きな大会の1週間前ということもあり、コーチ陣の話し合いによって合同レースが実現した。

 いざウエットスーツに着替えて海上へ! レース海面に向かった。
この日は晴天で、アドリア海沖から吹く風速7m/s程度の強い風はヨットレースにふさわしい条件だった。
20艇の参加があり、3レースを予定していた。ヨットレースは全艇が一斉にスタートし、決められたコースを帆走する。ゴールした着順が自分の得点となり、合計得点によって総合順位が決定する。(得点が低い順に1位〜)

 1レース目、スタートの合図が鳴った。少し緊張していたが心を落ち着かせ、冷静に海面の様子を分析した。左側の雲の動きから強い風が吹くと読み、私はコースの左側に向かった。ヨーロッパチャンピオンを含む多くの地元選手たちは反対に右側にある岸の方向に向かった。
左側の海面を選択した私、右側の海面を選択したヨーロッパチャンピオンとの勝負の瞬間だった。
結果、左側の海面は風速が徐々に弱まりはじめた。そして右側の海面から強い風が吹きだした。
私の予想が大きく外れ地元選手に大敗し、20艇中18位でゴールをした。

続く2レース目、風の読みが的中して2位でゴール。
3レース目は順位の入れ替わりが激しい中、10位でゴールした。
3レースの総合順位は10位という結果に終わった。全日本チャンピオンの私でも、ヨーロッパチャンピオンにはかなわなかった。

 優勝した選手はこの日、3レースを1位、1位、2位の成績だった。まさに圧勝だ。
その選手がレース中にいったい何を考えているのか? 気になった私はレース後に話かけた。

私:「今日の成績はすごかったね。なんでそんなに風が予測できるの? 何を考えてレースをしているの?」
優勝選手:「難しいことは考えないようにしている。フィーリングを大切にしているよ。」

彼との会話の中で最も印象に残った言葉がフィーリングだ。
その時、その瞬間に感じたフィーリングによって何をすべきか判断をしているようだ。
私は驚いた。フィーリングとは和訳すれば感覚である。確かに感覚で判断をすることは大切だが、世界のトップレベルの選手なら、もっと理論的な考え方をしていると思っていた。

体験したことを整理して理論づけること=理解すること

と思っていたが、それがすべてではない。
自分はできるが、それをうまく説明ができないことだってある。
それは感覚から感じたものであるからだ。感覚を言葉で表現する事はとても難しい。
私は言葉にできなければ、理解していない事と同じだと思っていた。
しかし、世界のトップレベルの選手はフィーリングから唯一無二の技術を習得していた。
これからはフィーリングも大切にしていこうと思う。

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