ホームへ戻る > エッセイ&コラム > 全盲ヨットマン岩本が「みる」世界〜太平洋横断の冒険〜 > 【第6回】
2月24日にサンディエゴを出発し、4月20日に無事に福島県いわき市の小名浜港に到着することができました。
走行距離約1万3千キロを55日間かけてセーリングしました。
多くの方々からの応援があって成功することができたと感謝しています。
55日間、順調なことばかりではありませんでした。
いや、苦しかったことのほうが多かったと言えるでしょう。
サンディエゴを出港して約10日間、微風と無風に苦しめられました。
ヨットは風がないと先へ進めません。
積んでいる燃料は限られており、エンジンを回し続けることもできません。
進みたくても進めない、自分達でどうすることも出来ない、精神的に非常に辛かったですね。
ハワイ島の沖ではスコールに会い、突然の突風と大雨に四苦八苦しながら帆を操作しました。
でもスコールの時は、普段シャワーを浴びれないため、この雨が恵みの雨となり、サッと髪の毛を洗うことが出来すっきりしました。
スコールを除けば、ハワイ周辺では、貿易風を後ろから受け、湖のような波のない太平洋を燦燦と太陽が降り注ぐ中、セーリングを楽しむことができました。
これぞ期待していた太平洋横断のセーリング、心がワクワクしてきます。
それまでの苦労が何でもなかったように感じられます。
ダグとの会話もはずみ、それまでギクシャクしていた人間関係も解消されました。
ところが、日本近海に来ると低気圧と前線に会い、強風と高波に苦しめられるようになります。
台風崩れのような、風速22mと5mの波の中を先へ先へと進んで行くしかありません。
太平洋は広く、どこかに逃げ込むことは不可能です。周りには海しかありませんからね。
しかも、暗い夜に止まることもできません。
ヨットは強風を受けて最大45度ほど横倒しになります。
その状態で前から波を受け10m(4階から地面を見る高さ)叩きつけられます。
ヨットが壊れるのではないかと思うくらい大きな音がします。
船内でも、歩く時には両手でしっかりと柱や壁、それに手すりを持って移動しないと、床に叩きつけられます。
一歩踏み出すのにタイミングを計りながら5秒かかることもあります。
体重を支えている手足が疲れてくると、移動するのもままならなくなります。
通常だとお湯を沸かして、フリーズドライの味噌汁やカップラーメンを作るのですが、そのような余裕はありません。その晩は水とせんべいが夕食でした。
ベッドに戻り、横になりこの夕食を食べながら、「自分は何のためにこのような苦労をしているんだ、こんなチャレンジをするんじゃなかった」とネガティブになることもありました。
しかし、4月20日午前9時、もやいロープを投げ無事にヨットDream Weaverを着岸できた時には、それまで感じたことのない満足感と感動を得ることができました。
この感動を忘れることは一生涯ないでしょう。
無風や嵐にあったからこそ、この感動が与えられたのです。
人生も同じではないでしょうか。
順風満帆な時間だけでは人生は面白くありません。
困難や試練が与えられるからこそ、その後に感動を感じることができるのです。